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●望みは違えども
絶え間ない快楽に溺れていく。
息はままならず、体は英正から刻まれる快感に反応して脈打ち、俺という人間が削られていくように感じてしまう。
そうやって俺を削って、すべてを奪おうというのだろうか?
誰にも俺を奪われないように――。
「えい……せ、い……っ……」
すでに力は入らず、名を呼ぶだけでも精一杯だ。もう意味のある言葉を発することが辛い。
しかし己の望みを叶えているはずなのに、行為を続けるほど飢えているようにしか見えない英正を、このままにはできなかった。
力が入らぬ腕をどうにか伸ばし、俺は英正の頭を抱く。
柔らかな髪をひと撫ですると、英正の動きが完全に沈黙した。
「……ありが、とう……俺の、ために……尽くして、くれて……」
快楽で削られて剥き出しになった心のまま、俺は英正に礼を送る。
英正が望んでいる言葉は、俺が華候焔へ向けているものなのだろう。
口にすれば英正は喜ぶだろうし、今回の功労者への一番の労いになると思う。
だが同時に、英正は口先だけの偽りを望む男ではない。
俺を信じているからこそ、俺が口にした言葉をすべて受け止めて喜びとする――俺の言葉に偽りが混じっていると気づいた瞬間、英正の心の芯が壊れる気がしてならなかった。
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