●望みは違えども

2/2
前へ
/568ページ
次へ
 俺からの言葉をしっかりと受け止めようと、英正は繋がったまま動きを止め続ける。  ――そして己の中へ刻み終えてから俺を深く抱き締めた。 「誠人様……っ私のワガママに、ここまで付き合って下さって……幸せすぎて、今にも魂が召されそうです」 「召されるのは、嫌だな……英正には、生きてもらいたい」 「……っ! はいっ、必ず……誠人様がすべてを手に入れるまで、私は生き抜いてみせます」  ギュッ、と。英正の腕の締め付けが強まった。 「私のすべては誠人様のもの……この身も、心も、魂も……どうか受け取って下さい。それだけで私は報われます……」  掠れた声の睦言。甘さを伴いながらも、やけに重たい。  まるで死が間近だと確信した者のような響き。  俺の知らぬところで英正は何かを聞き、背負ったのかもしれない。  ふとそんなことを思い、俺は英正の頭に頬を当てた。 「英正……何があったのか、言えないのか?」 「……はい。申し訳ありません」 「ならば聞かない。英正の望み通りにしよう」  俺の耳が英正が息を詰まらせる音を拾う。  そして安堵のようなため息を英正が吐き出した時、俺は彼のこめかみに口付けた。 「でも覚えておいて欲しい……俺は英正に生きて欲しい。そのためなら俺は、どれだけでも英正の糧になるから……」  これが俺にできる英正への精一杯。  ヒク、と英正から嗚咽のような声が一瞬聞こえた。  だが細長い息を吐き出した後、英正は俺に小さく告げた。 「あと一回だけ……いいですか?」  また快楽に俺が削られる――ズクン、と繋がり合う所が甘く疼いて心が蕩ける。 「……好きにして、いい」  俺からの許しを得て、英正が腰を揺らし始める。  たったそれだけで小さくなっていた快感の揺らめきが大波へと変わり、瞬く間に俺を呑み込んでしまった。
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加