●情愛にまどろむ中で

2/2
前へ
/568ページ
次へ
 起こせばただでは済まないと分かっているのに。  まるで強請りながら起こそうとしているような自分に、ますます顔が熱くなった。  早く離れなければ、と布団から抜け出ようとしたが、もう遅かった。 「……逃げるな。誠人の気持ちは分かったから」  いつの間にか目を覚ました華候焔がニヤリと笑い、俺を腕に閉じ込め直して唇を塞いでくる。  まだ体は昨夜の情事の疲れを残しているというのに。  容赦なく舌を絡め取られて、情愛に満ちた口付けに酔いしれていく。  このままだと昨夜よりも華候焔に溺れてしまう――そんな予感に囚われかけた時だった。 「誠人様、やりました! コンパウンドボウの大量生産、完成しました!」  突然部屋の扉が勢いよく開き、才明が慌ただしく寝台まで駆け寄ってくる。  いきなり甘い空気を壊され、俺も華候焔も唖然となって顔を離す。  普段の才明なら、空気を読んでもっと待っていただろうに。それができないほど興奮していることが分かってしまい、俺は顔を綻ばせる。しかし、 「才明、後にしろ……やっと誠人が積極的になってくれたのに……」  俺を深く抱き込んだかと思えば、低く怒気を孕んだ声で華候焔が才明をけん制する。  いくら才明でも華候焔の怒りを一心に浴びたら手足は震え、そのまま固まってしまうだろう。  しかし切望を叶えた才明に恐れなどなかった。 「昨夜はいっぱい楽しんだでしょう、華候焔殿? 次は私の番です」  才明は糸目をニンマリとさせて胸を張る。 「さあ、朝食を終えたら色々と仕込みますよ。楽しみにしていて下さいね、誠人様」  ……いつになく才明が強い。  まったく折れない才明に、俺と華候焔はいうことを聞くしかなかった。
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加