山腹での設置

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山腹での設置

       城下町を出て、才明は俺たちを近くの山へと案内していく。  森の中をしばらく馬で進んだ後、勾配が厳しくなってきた所で徒歩に切り替える。  そうして山の頂上付近まで近づくと、既に才明が手配していた兵士とコンパウンドボウが視界に入ってきた。 「みなさん、ご苦労様です。しっかり固定できたようですね」  才明はひとつずつ設置されたコンパウンドボウを見て回っていく。  両端に小さな滑車を取り付け、より強く弦を引くことができる弓。  固定して使用することを前提に作ったものは、持ち運ぶものよりも二回りほど大きい。  よほど嬉しいのか、才明の顔がウキウキと輝いている。こんなに喜んでいる才明を見るのは初めてだ。  初めて会った時は一切心を見せない、掴みどころのない男だと思っていたが……色々あって才明の人となりを知った今は、むしろ分かりやすい男だという認識だ。  自分の目的のためにこの世界で生きている才明。俺と同じ目的を持つ――この『至高英雄』の世界の秘密を知りたがっている同志。今の俺にとって才明の存在は心強い。  普段は俺を支えてもらっているばかりだから、こうして才明の望みを叶えることができて良かった。  俺が才明に対して頼もしさと微笑ましさを感じていると、隣に並んだ華候焔が苦笑を漏らした。 「まるで新しいオモチャをもらったガキだな。そんなにはしゃいで……まあ俺も使えば遠距離攻撃で本営を潰せるから、戦いが楽になるなあ」 「そんなこと言って、華候焔殿は直に戦いたいお人なのでは? 相手の顔を見ずに潰しても、手応えがなくて消化不良を起こしそうですね」
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