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才明は軍師だ。最悪を想定した上での発言なのは分かっている。
だが、その最悪を頭に思い浮かべてしまい、俺の腹に重みが溜まった。
「……そうならないよう、才明は手を打ってくれると信じている」
「もちろんです。領民を危険に晒す隙なんて、絶対に作りませんよ。だからこそこの武器が十分に準備できるまで、こちらからの侵攻は抑えていたのですから」
おもむろに才明が体の向きを変え、俺だけでなく華候焔や白澤も見交わす。
「次の戦は領主を狙いましょう。ここより一番近く、足場が崩れて隙だらけの太史翔を」
「おおっ、良いじゃねえか。喜んでやってやる」
大戦の提案に華候焔が満面の笑みを浮かべる。思い切り戦えることが心底嬉しいのだろう。
半面、俺は喜ぶことなどできなかった。
一つの可能性が頭に浮かんでしまい、むしろ嫌な汗が手の平にじっとりと滲む。
俺が生身ごとこっちの世界に来ているならば――ここで生きている人たちは作られたゲームのNPCではなく、この世界の生身の人間なのではないのか?
本当に俺はこの世界で、命のやり取りをしているのではないのか?
気づいてしまった可能性に、俺は小さく息を呑んだ。
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