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ただ、今は戦に対して引っかかりを覚えてしまうせいで、人と戦うことを喜んでいるように見えて辛い。思わず表情が陰りそうになっていると、
「明日には進軍を始めるなら、誠人様にはしっかり休んでもらわんとな。人選や兵糧の手配なんかは、お前たちでやっておけよ」
ポン、と華候焔が俺の肩に手を置き、隣に並びながら告げてくる。
瞳だけ動かして見上げれば、目が合った瞬間に華候焔が小さく苦笑する。
俺の心を読んでこの場から離そうとしてくれているのだろう。その気遣いが嬉しくもあり、己の不甲斐なさに泣きたくもあった。
「承知しました。明日の準備は私たちですべて行いますから、誠人様は明日に備えられて下さい。いくら強力な武器があるとはいえ兵力差は歴然。兵たち士気を高める誠人様の参戦もまた大切な武器ですから」
才明もまた俺の状態を察したらしく、華候焔の提案をすんなりと受け入れる。
唯一、白澤だけは不満げに唸った。
「んー……華候焔、誠人サマのお休みの邪魔はしないで下さいよー? なんだかんだ言って誠人サマに手を出して、明日に響くようなマネをしないで下さいー」
「少しは信用しろ長毛玉。いくら俺でも手を出していい時と悪い時ぐらいはわきまえる」
「どう見ても普段からわきまえていないんですけどー。信用できるワケがないでしょー」
相変わらずな華候焔と白澤の言い合いが始まり、少しだけ俺の胸が安堵で軽くなる。
それでも淀んでしまった心の内は晴れず、俺は小さく息をついた。
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