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艶のある女性は軽く会釈すると、他の女性たちとともに部屋を出ていく。
静かに引き戸が閉まり、彼女たちの気配が完全に消える。
不意に華候焔が俺を見つめながら、愉快げに笑った。
「どうした誠人、顔が赤いぞ?」
……あんなに堂々と俺への想いを口に出されて、何も思わないはずがないだろう。
ただ食事するだけの場所ではないことぐらい分かったが、断るならば最初の言葉だけで十分だというのに。
隙あらば間接的でも口説いてくることに俺が頭を抱えていると、華候焔の目が細まった。
「昔ならば退屈しのぎに遊んでいたが、もう遊び女との戯れでは微塵も気を紛らわすことができぬ体になってしまった。しっかり責任は取ってもらうからな」
「焔……むしろ取り返しがつかない体になったのは、俺のほうなんだが」
ずっと思っていたことを俺が呟くと、華候焔は短く首を横に振った。
「誠人はまだ引き返せるだろ。この世界と俺に染まり切っていない……俺と同じ場所に立っていない。その他大勢のせいで気が散っているようだからな」
心の引っ掛かりを見抜かれて、俺の胸がドキリと跳ねる
動揺を覗かせてしまった俺を見逃すはずもなく、華候焔は机に腕を乗せ、身を乗り出しながら顔を近づけた。
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