真実の一端

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「英正は無名の兵士たちの中から焔が引き抜いて、俺が名前をつけた……俺の名づけで命ある者になったということか」 「ああ。気を付けろよ、この世界は名前が大切なんだ。人だけじゃなく、何かに名前を付ければ特別になる。そして役目を強制される」  名前がなければ仮想の存在だというのに、名前をつけただけで命あるものになるなんて。  俺の現実世界と違い過ぎる理に、頭の中が理解し切れず熱を帯びていく。  そんな状態でも聞きたいことが湧き出てしまい、考える前に俺の口から飛び出た。 「……もし負けて姿と名前を変えた領主に元の名前を付けたら、本来の姿に戻るのか?」 「戻ることはできるが勧められんな。領主じゃないのに元の姿に戻ったら、この世界の補正を受けられなくなる。技も出せなければ、それに耐えうる体にもなれない。良いことなんて何ひとつない」  言いながら華候焔が苦笑を滲ませ、わずかに俺から視線を逸らした。 「本気を出そうとしたら、この体だと歯止めが利かない。かといって元の姿を取り戻せば、蟻が象に挑むようなもの……難儀な世界だ」
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