一か八か

3/5
前へ
/568ページ
次へ
「いざ、尋常に勝負!」  太史翔が叫びながら槍を振り回す。  刹那、回転から突風が生み出され、思わず俺は身を引き、左腕で目を庇う。  風は次第に空へと巻き上げられ、俺たちの頭上で大きく育っていく――竜巻だ。恐らく槍の付与能力なのだろう。  気づいた瞬間、俺は竹砕棍を振り上げながら馬を走らせていた。 「させてたまるか……炎舞撃!」  炎を生み出しながら太史翔に迫り、棍の一撃を繰り出す。  大きな技を出すためには時間がかかる。それよりもこちらが速く技を打ち込めば、技を繰り出すのを阻止することができる。  初期の技は大技よりも威力は弱いが、すぐ放てる。  大技を消して、隙ができたところで俺が懐に入って攻撃すれば――。  ガァンッ、と竹砕棍が太史翔の鎧を打ち付ける。  だが音は響けど、太史翔の動きが止まることはなかった。 「良い動きだが、俺の鎧には敵わぬな」  太史翔の唇がニヤリと笑う。  回転していた槍の切先が、勢いよく振り下ろされた。 「吹き飛べ、青龍嵐!」  勢いを強めた竜巻が、俺に襲い来る。  慌てて竹砕棍を前に構えて防御の姿勢は取ったが、風の前では無力だった。 「うわぁぁっ!」  俺の体が巻き上げられ、高く空に舞っていく。  渦に呑まれて激しく身体は回転し、息ができない。  小石がぶつかるだけでなく、かまいたちのような鋭い風も俺を襲い、切りつけてくる。 「誠人サマ、は、ワタシがお守りを……っ」  白鐸が俺から離れまいと身体に巻き付きながら、守りの力を強めてくれる。おかげで傷はなく、ダメージは軽減できている。  しかし息がままならず、少しでも気を抜けば意識が飛びそうだ。そうなれば無様に地に叩きつけられ、呆気なく敗者に堕ちる。  このまま負ければ今までの頑張りは泡沫に帰す。  負けたプレイヤーたちを助けることも、ここまで広げた領地も、大きくなった城も、集まった武将たちも――華侯焔や才明、英正たちの忠誠も、興味も。  失いたくない。  ここで得たものは取り返しのつかないものばかりだが、もう俺の血肉になっている。それを失うということは、自分を失うとことに等しい。  俺は目をわずかに開き、勝機を探す。  しっかりと強く握り込み、竹砕棍を離すまいとする右手。  今にも暴風に持っていかれそうだが、奥歯を食いしばり、どうにか左手を動かして両手で握る。  後は技が終わるのを待つだけ。  息が苦しい。胸が痛みを覚え出す。目の前が点滅する。  限界が迫り来る中、風の勢いが落ちるのを感じた。
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加