現実での顔合わせ

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 思わず東郷さんに見惚れていると、仲林アナがコホンと咳をした。 「恋人同士の語らいは後にして下さいね。才明をやっている身としては複雑な気持ちになりますので」 「ゲームの中では協力してもらうが、こちらでは遠慮してもらいたい。正代君は――誠人は渡せない」  身体を離すところか、東郷さんは俺の額に口づけて仲林アナを牽制する。  東郷さんの口から下の名前を呼ばれると、俺の鼓動が騒がしくなってしまう。しかも本当は独占欲が強いところや牽制の仕方が華侯焔だ。ゲームで味わったものが現実でも起きてしまうと、俺の頭の中が歓喜と欲情でおかしくなりそうだ。  仲林アナは笑みを浮かべたまま肩をすくめる。 「自分の立ち位置は弁えています。私が望むのはあの世界の真実と解放。そのためなら協力を惜しみませんし、手段も選びません。現実で正代選手に手を出すなんてことはしませんよ」 「それなら良かった。ゲームと現実を分けて考えてもらえると助かる」 「人との縁は早いもの勝ちですからね。そこの割り切りは学んできたつもりです。これでも社会の荒波に揉まれて随分と経ちますから」  落ち着いた会話をしているが、東郷さんの手はまだ俺の肩を抱いたままだ。チラリと東郷さんを見やれば、目がまだ仲林アナを睨みつけ、牽制を続けている。  対する仲林アナは厳しい視線をにこやかに受け流し、臆せずに対峙している。  そして軽く目を閉じて深呼吸した後、再びまぶたを開いて現れた瞳はギラつきを帯びていた。 「私は色恋よりも、『至高英雄』の謎を知りたいのですよ。ただのゲームでないことは既に分かっています。なぜこんなゲームが生まれたのか、誰が敗者を奴隷とするシステムを作り上げたのか……真実をこの手で掴みたい」  力は俺や東郷さんのほうが強い。しかし『至高英雄』への執念は仲林アナのほうが強いのかもしれない。得体の知れない凄みのようなものが仲林アナから漂い、思わず俺は身を引きそうになる。  一方、東郷さんは一切動じることなく話を切り出す。 「そうか……ならば次にゲームを再開した時、澗宇に話を聞くといい。弟も敗者を解放するために独自で調べている。すべては分からずとも、真実の一端は見えるはずだ」 「兄である貴方のお許しが出て良かったです。近い内に第二位の領主を狙う準備をしたいので、助力をお願いする際に聞こうと思います」  にこやかに話す仲林アナに、俺は目を見張ってしまう。 「もう第二位の領主を狙う、のか?」 「はい。澗宇さんの後ろ盾と、コンパウンドボウの特殊部隊に加えて、太史翔の配下たちが私たちの陣営に加わり、人材の層も厚くなりましたから」
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