思いがけない陳情

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 表涼、なんて罪深い奴なんだ。  ここまで武将たちを虜にしてしまうとは、最早ただの好色ではなく、華侯焔とは違った傾国の将に育った気がする。  これはどう判断すれば良いのだろうかと頭を悩ませていると、才明が「分かりました」と切り出した。 「第二位に挑むというのは、非常に大きな動き。今すぐここで決断することはできませんが、最優先事項として誠人様と考えることをお約束します」  羽勳たちから「おおっ」と驚きと期待が溢れた声が上がる。  そうして彼らは表情を明るくしながら、「失礼します」と一礼し、大広間を出て行った。  バタンッ、と白鐸が扉を閉じてくれる。そして飛び跳ねながら俺たちに近づいてきた。 「すごいですねー表涼。こんなに男たちを手玉に取るなんて」 「あ、ああ。ちょっとまだ、驚きで頭が上手く回らない――才明?」  ふと才明から忍び笑いが聞こえて振り向くと、彼は口元を手で覆いながら軽くうつむき、肩を震わせていた。 「いえ……まさか、こんなに効果があるとは思いませんでした」  ひとしきり笑ってから、才明は顔を上げ、自慢げな笑みを浮かべる。 「実はこうなるよう、私が表涼へ密かに指示をしていたのです。彼らを夢中にさせ、自ら戦いたいと言い出すようにして欲しいと」 「ええっ! 誠人サマに隠れて、何やっちゃってるんですかー!」  白鐸が俺の代わりに才明に尋ねながらツッコミを入れてくれる。  才明は小さく頷いてから、胸元で拝手し、俺に頭を下げた。 「勝手なことをして申し訳ありません。ただ、これには大きな狙いがあるのです」 「才明がすることには意味があることは承知している。狙いは何か教えて欲しい」 「はい。我々の目的は、一日でも早く第一位を倒して覇者となること。そのためにひとつずつ目的を果たすのではなく、同時進行できればと考え、羽勳たちの士気と欲求を高めて第二位攻略に仕向けました。武将の層も厚くなりましたから、誠人様が不在でも成果は見込めるかと」  才明は『至高英雄』の裏を知り、現実で俺に協力を約束してくれた仲林アナだ。  ただゲームを攻略したいのではない。一日でも早く、敗者となって奴隷となっているプレイヤーたちを解放する目的で、俺たちは動いている。  確かに配下の武将たちだけで第二位を攻略できるなら、その分、俺は別のことができる。才明の真の狙いを理解し、俺は「顔を上げてくれ」と促す。 「才明。俺のために動いてくれたこと、感謝する。それで俺は戦場へ出ず、何をすればいいんだ?」 「第一位である志馬威を倒すための準備をして頂きたい。まずは我らの後ろ盾になっている潤宇に協力を仰ぐため、誠人様には潤宇の本城へ足を運んで頂きたい。大事ですから、領主自ら出向いて誠意を見せる必要があります」
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