英正との合わせ技

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 しばらく俺は英正と見つめ合い、技の効果が切れて身体に重みが戻っていくのを感じ取る。  ずしり、と身体が重くなり、倦怠感が一気に襲い来る。雷獣化は肉体強化の技。やはり負担は大きい。  膝が折れてよろめいた俺を、英正がすぐ駆け寄って支えてくれた。 「大丈夫ですか、誠人様!」 「問題ない。少し疲れただけだから」  俺が笑いかけると、英正は安堵で表情を緩めてから微笑み返してくれる。  そして今にも溶けそうな目を向けてきた。 「こんな技を放てるなんて……幸せ過ぎて、今にも天に召されそうです」 「待て、それは困る。召されないでくれ」  あまりに本気の声色で英正に言われてしまい、俺は思わず焦ってしまう。  彼には珍しい冗談だと思いたい。  だが、不意に英正の腕が俺を捕らえて抱き包んでくる。  かすれた声の呟きは、いつにない真剣味があった。 「どうか誠人様の中で私が生きられるよう、その身に刻ませて下さい。誠人様が悲願を果たされた後も、心が共に在れるように……」  合わせ技を繰り出したことで、英正の想いはよく伝わってきた。  そこに含まれている、不安や恐れも、悲しみも――。  俺はそっと英正の背に腕を回し、抱き締め返す。 「ああ。どうか最後まで一緒に駆けて欲しい。俺が覇者となって、すべてを解放するまで」  俺が『至高英雄』の覇者になれば、このゲームを終わらせ、負けたプレイヤーたちを解放することができる。  それは俺がゲームをやめ、英正との日々が終わるということ。  現実に存在する東郷さんや仲林アナとは違い、英正はゲームだけの存在。  前から英正から感じた憂いはこれだったのかと、今になって思い至る。  俺がこの世界で勝ち上がるために作られた武将。  英正の前から俺が消えてしまえば、生きる理由をすべて失うことになるだろう。  胸の奥深くが鋭く痛む。  だが、俺はもう終わりに向けて動き始めてしまった。英正のためだけに立ち止まることはできない。  だからいつか迎える別れの時まで、俺は英正を受け止めたい。  おもむろに俺は英正の腕の中にいながら顔を合わせ、ジッと見つめる。  俺の想いを感じ取った英正は、俺の考えをすぐに理解する。  小さな息をついた後、薄く開いて迎える気持ちを覗かせた俺の唇を奪った。
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