相部屋の相手は

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 才明はなかなか本音を覗かせない男だ。  現実の姿である仲林アナも同じではあるが、才明の時はより本音が見えない。  ただ俺を支え、真実を知りたいという気持ちは本物だ。だから信用できる人間だと思っているが――。 「誠人様、お待たせしました。どうぞこちらへ」  屋敷から戻ってきた侶普に声をかけられ、俺は我に返る。 「あ、ああ、感謝する」  侶普の案内で俺たちが屋敷に向かうと、中華風の平屋の玄関口に召使いらしき者たちが左右に並び、頭を下げながら歓迎の意を示していた。  自分がこんな大層な者だとは思っていないだけに、この歓待は落ち着かない。しかし他の領主を招くということは、それだけ重大で手厚くするものだというのは頭で理解できる。  目の前に家人らしき身なりの良い男性が現れ、にこやかな顔――名は与えられていないらしく、顔はぼやけ、唇の動きだけで表情を読む――で拝手しながら俺たちに頭を下げた。 「ようこそお出で下さりました。話は侶普様から伺っております。今宵はどうぞこちらでお休みを」 「食事の用意はできているか? 負担をかけさせてしまっている故、精のつくものを頼む」  侶普の注文に、家人は頭を上げて大きく頷いた。 「心得ております。あと間もなくで整いますので、今しばらく奥の部屋にてお待ち下さいませ」 「分かった。部屋へは俺が案内する。だからお前たちは食事と湯殿の準備を急いでくれ」  命じられるままに家人や召使いたちが動き出す。まるでコマンドを与えられて動くゲームキャラそのものだ。なまじ意思のある配下たちに囲まれていると、たまに遭遇するゲームらしい動きに違和感を覚えてしまう。  案内されるままに屋敷の奥の部屋に着くと、部屋は二つに分かれていた。 「一部屋にこの人数を迎えるのは難しかったようで、就寝時に分かれる必要があるようですね」  二つの扉を見交わしながら侶普が呟いていると、断りもなく華侯焔が手を伸ばし、無遠慮に扉を開けて部屋の中を確かめる。 「寝台が四つと二つか。良かったなデカ毛玉、お前の寝床もちゃんとあるぞ。まあお前は庭で寝るのがお似合いなんだがな」 「何言ってるんですかー! 神獣を外で寝かせるなんて、とんでもないことですー!」  その場で飛び跳ねながら白鐸が華侯焔を非難する。  ……なんてシュールな絵なんだ。未だに慣れない。  ゲーム内の作られた人たちだからか、ここの家人たちは白鐸を見てもまったく驚かなかった。それは理解できるが、意思がある侶普が白鐸を見てもまったく動じないということに驚くばかりだ。  動じないその精神は見習いたいと思っていると、華侯焔が場を仕切り始める。 「誠人様は二人部屋のほうだな。ゆっくりと休んで頂かないとな」 「じゃあワタシもそちらで――」 「お前はそっちじゃない。いつも一緒に寝ていないだろうが」 「狙いは分かっているんですから、華侯焔ー! どうせ誠人様と相部屋になりたいだけなんでしょーが!」  話を聞きながら、たぶん白鐸の言う通りなんだろうな、と思っていた。  だが、意外にも華侯焔は首を横に振った。 「いいや。俺じゃない」  ぐるりと首を捻って華侯焔が視線を向けた先は、才明だった。 「今夜は才明が相部屋だ」
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