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俺の言葉に、今度は才明が呆然となる。
「それは、つまり……合わせ技は使えないままでいい、ということですか?」
「ああ。どんな技が出るのか分からないが、使えれば有利になるのは間違いないと思う。だが、それで才明を追い詰めたくない。不利になる分は、俺が強くなればいいだけだ」
言いながら、それは険しい道になるだろうとは思う。
だが、誰かの心を犠牲にしてまで楽になりたくはない。自分が苦しみながら強さを求めてもがいたほうがいい。そうやって俺は生きてきたから。
才明の顔から力みが抜け、まっさらな顔で俺を見つめてくる。
無音が続く中――才明の表情が笑みで崩れた。
「本当に貴方は情に厚すぎますね。さすが何人もの将を身体で従え続けてさせている器の持ち主ですね」
「……そういう茶化し方はやめてくれ」
「茶化していませんよ。それだけ誰かを包み込めるお人柄、ということですから」
ひとしきり笑った後、才明は俺の頬に顔を寄せて唇を落とした。
「誠人様の答えを聞いて、少し気が楽になりました。今はどうか、貴方の覚悟に甘えさせて下さい」
才明に多くを支えてもらっているのに、俺ができるのはこんなささやかな返しぐらい。
未熟故の弱さを自覚しながら、俺は小さく頷く。
明日になったら華侯焔に嫌味を言われそうだと思っていると――才明が俺の首筋に顔を埋め、チュッ、と吸い付いた。
「ん……っ……この流れで、するのか?」
「誠人様と二人だけで一晩を過ごすなんて、なかなか貴重な機会ですから。出された据え膳は美味しく頂かねば」
頭を上げて俺を覗き込む才明の顔は、いつもの掴みどころのない、にこやかな糸目の策士だった。
完全に本音を隠した顔。それを少し寂しいと感じてしまうが、俺は口を閉ざして才明に身を委ねる。
唇のまぐわいはそこそこに、身体の至る所をキスしたがる才明。
俺のはだけた寝間着をそのままに、軽く筋肉で盛り上がった胸へ顔を埋め、熱く脈打つ肌に吸い付く。
淡い疼きが全身に広がり、俺の身体が弛緩する。
その刹那、まだ触れられていないのに起立した胸の尖りに歯を立てられ、ビクンっ、と俺の全身が跳ねた。
「……ッ……あ……」
前は落ち着かなくなるだけだったのに、三人から教え込まれたせいで、胸を構われるだけでよがってしまう。
思わず敷布を掻いて身悶える俺へ、才明は何度も胸に吸い付き、甘噛みして追い詰めていく。
寝間着に潜ませてあったらしい軟膏の容器を取り出し、才明は俺の後孔を弄り、指で暴きながらも胸を舐り続ける。
頭の中を淫らに変えられながら、俺を貪り出した才明が甘えているように見えて、俺の手は何度も才明の頭を撫でていた。
そうして滑らかに才明を体内に迎えて、最奥を叩く抽挿に悦びを覚えている中、
「少し、ワガママを言ってもいいですか?」
「ぁ……な、んだ……?」
「誠人様から、私を求めてくれて良いですか? 今だけで構わないので」
――言うまでもなかったのに。
動きが遅れてしまったことを後悔しつつ、俺は才明にしがみつき、自ら唇と舌をまぐわせる。
そうして上と下を激しく睦み合わせ、絶頂の果てを迎えかけた時。
「はっ、ぅぅ……ぁぁ――ッッ!」
より深く才明を感じたくて、俺は才明の腰に脚を回し、四肢で抱擁した。
奥に才明の昂りをしっかりと押し付けたまま、注がれる熱に感じ入る。
与えられる精が自分の糧だと言いたげに、俺の肉壁は脈打ち、搾り取ろうとしていく。
そんな貪欲な俺の身体をさらに堕とすかのように、才明は再び腰を揺らし、俺を壊しにかかる。
「ま、待って、まだ中が……あァ……ッ」
「何を言っているんですか? もっと欲しいから、私の腰を脚で抱き続けているのでしょう? 応えて差し上げますよ……っ」
汗を散らしながら才明は俺を穿つ。身を乗り出し、より深く、奥の壁のさらに先を突き抜けたそうに動く。
才明が珍しく、荒々しさを持って俺を快楽に堕としてくる。
絶え間なく詰め込まれる快楽に、俺の息がままならなくなり、意識が細切れになっていく。
視界が点滅し、意識が暗くなる時間が長くなった時。
小さな才明の囁きが聞こえた気がした。
「はぁ……誠人様……――ます……っ……」
肝心な言葉は聞こえなかった。
聞き返しはせず、俺は恥ずかしげもなく喘ぎながら、気を失うまで才明を四肢で抱え続けた。
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