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潤宇との再会
◇ ◇ ◇
一泊した後、俺たちは侶普を先頭に馬を走らせ、潤宇の元へ向かった。
彼の赤い馬は特別な名馬らしく、どれだけ駆けても疲れを知らず、立派な体躯と反して軽やかに走る。
対して俺たちの馬は一般的な能力のもの。本来なら侶普の愛馬について行くことは無理だろう。それを可能としているのは、上空で白鐸が俺たちの馬に力を送り、体力回復の術をかけ続けているおかげだった。
白鐸の支えに心の底から感謝する。ただ、
「コラ、デカ毛玉! 俺が遅れるように馬の回復を施すな!」
「そんなことしてませんからー。アナタのことはイヤですけど、馬は可愛いのでー」
「だが明らかに普段より速く走れんぞ? 誠人様の近くで走れないのはつまらんだろ」
「移動中にイタズラされたら困りますのでー、誠人サマから離れて走るよう、馬にお願いしましたー。ワタシ、これでも神獣ですからねー。動物はみんな従ってくれますー」
「なんだと!? デカ毛玉のクセに!」
「敵がいないかどうかはワタシが上空から見張っておりますので、何かあればいつも通り動いてもらいますからー。だいたいアナタはいつも――」
……華侯焔と白鐸の言い合いを、大声で延々と続けるのはやめて欲しい。
何度か俺も侶普も注意したが、その時はやめてくれるものの、ちょっとしたことで再発する。
しかも長々と白鐸が俺のためにちゃんとやれと説教したり、俺にどれだけ求められているかを自慢し合ったりなどを、一帯に響かせながらの移動だ。潤宇の領民たちに俺のことを言いふらされている気がしてたまらない。
免疫のある才明と英正は苦笑いするだけだったが、そうではない侶普の華侯焔に対する冷ややかな目は凄まじかった。
そして移動の最中、華侯焔が言い合いに夢中になっている最中、侶普は馬の足を緩め、わざわざ俺と並走しながら言ってくれた。
「誠人様、アレは目に余りますので、潤宇様にお伝えしてたしなめて頂きましょうか?」
「……暴走が過ぎるようなら、俺から潤宇に伝えたいと思う」
「もう十分に暴走していると思いますが?」
「まだあれは可愛いほうだ」
「あれで……やはり懐が広いですね、誠人様は」
妙な感心をしつつ、華侯焔たちに呆れながら侶普は再び先頭を駆け出した。
ともに行動する間で、侶普が華侯焔への反発を大きくしていくのが見て取れた。
恐らくこの件は潤宇に報告されるだろう。侶普の背中からお灸を据えてやらねば、という苛立ちが漂っているのがよく分かった。
白鐸の術に頼りながらの移動のおかげで、本来なら三日はかかる移動が一日で済んだ。
月が昇り、夜空と大地を煌々と照らす頃に、俺たちは潤宇の元へたどり着いた。
「誠人さん、お待ちしておりました! 遠路はるばるお越し下さり、本当にありがとうございます」
城と呼ぶには規模が小さい、大きな岩を積み重ねて作られた砦。その中から格付け三位の領主である潤宇が、直接出向いてくれた。
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