壁の向こうは

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 話を聞いて、そういうものなのか、としか考えられない俺とは違い、才明がブツブツと思考を呟き出す。 「異世界の向こうは別の異世界……こちらに来た者は世界観に合わせた姿になるということは、別の世界が並列していると考えるより、異世界の中に異世界を作ったと考えるほうが自然でしょうかね。結界魔法のようなもので作られたとなれば、どの世界からこちらに入っても、魔法が働いて姿が変わる――」 「そこの御仁は魔道士か? こちらの世界の者にしては魔法をよく知っている。確かにこの異界は魔法で作られし場所だ」  芭蕉から答えを告げられて、才明が勢いよく顔を向けた。 「詳しく教えて頂けませんか!? この世界は私が知っている中華と同じ規模の大陸……これだけ広大な範囲を魔法で作り上げるなんて、信じられません」 「それは構わぬが、長い話になる。このような夜間の森で立ち話をするより、どこか落ち着いて話せる所に行くまいか?」  俺も詳しく話を聞きたい。  この世界の真実――考えるだけで鼓動が逸る。  侶普が芭蕉を見極めるように見つめた後、踵を返して境界の壁に背を向けた。 「これから砦に戻り、潤宇様も交えて話をしましょう」 「俺を高名な領主殿に会わせても構わぬのか?」  芭張に尋ねられ、侶普は一旦足を止める。 「名は?」 「芭張と申す」 「我が主は共存共栄を願われている。いたずらに人を襲い、騙し、領内を乱すことがなければ、出自は問わずに歓迎している。我々としても、貴殿と話ができるのはありがたい」  話を聞きながら、侶普たちは既に魔物の存在を知り、受け入れてきたことを悟る。  そして現実で東郷さんが話してくれたことを思い出す。  弟と協力して、あの世界を作っている者を捕らえて欲しい。  つまり東郷さん――華侯焔もこのことを既に認識し、『至高英雄』の成り立ちを知っているということ。  この世界はVRのゲームではない。プログラムではなく、異世界に転移させられた上に、魔法で作られた領域で戦わされているという事実。  不特定多数の人間を転移させ、広大な大地を魔法で作り替えた者が存在する。  魔法の存在を知らなかった俺でも、これだけのことができる存在が脅威であり、絶大な力を持っているということは理解できた。 「では参りましょう、誠人様」  侶普に促され、俺は「ああ」と歩き出す。  ふと視界の端で動かない英正に気づいて振り向くと、その顔は死地へ赴く覚悟をしたような表情だった。 「英正?」 「……申し訳ありません。今、参ります」  俺の呼びかけに気づいた英正が、我に返って駆け出す。  何を考えていたのかと、引っ掛かりを覚えてしまう。  それでも尋ねれば追い詰めてしまうような気がして、俺は何も言わず元来た道を進んだ。
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