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魔物の事情
◇ ◇ ◇
砦に戻ると、俺たちは軍議の部屋らしき所に通された。
そこで話し込んでいた澗宇と華侯焔と、部屋の隅で毛玉の置物と化していた白鐸が、一様にこちらを見る。
「誠人サマー、お帰りなさいませー! 無事に戻られて何よりですー……って、後ろにいるのはどなたですかー!? なんかヤバそうな気配がするんですけどー!」
俺の斜め後ろにいた芭張に対して、白鐸が毛を逆立てる。ボワッと膨らんだかと思えば、周囲にバチ、バチ、と静電気が発生し、なんとも異様な光景だ。
ぼそり、と芭張が呟いた。
「なるほど。こんな生き物が身近にいれば、異形への抵抗も薄くなるのも頷ける」
「あー! なんか分かりませんが、すごく失礼なことを言われた気がしますー! 誠人サマ、また妙な男に気に入られちゃってー! そんなにホイホイと男をたらしこまないで下さいー!」
……俺をそんなだらしない貞操の持ち主だと誤解させないでくれ。
痛みを覚えて俺が頭を押さえていると、察した英正が白鐸の元へ行って「落ち着いて下さい」と宥めてくれる。本当にありがたい。
その様子をニヤニヤと笑い面白がって眺めていた華侯焔だが、俺に視線を移すと眼差しを重くする。
「まあ白鐸の言いたいことは分かる。妙なものを連れて来て……慎重なようで豪胆なんだよなあ、誠人様は」
椅子から立ち上がったかと思えば、華侯焔は大股歩きで俺に近づき、手首を掴んでくる。そして有無を言わさず引っ張り、自分がいた所へ俺を座らせると、背後から抱きついて人の肩に顎を乗せてきた。
「これで良し。誠人様は誰のものか、しっかりと牽制しておかないとな」
「華侯焔……っ、彼は俺が頼んで来てもらっただけだ。配下になる訳でも、俺を狙っている訳でもない」
「分かってる、冗談だ。俺だけ残されたから、誠人様を補充したくて」
言いながら離れるどころか、ギュッと腕に力を入れて密着してくる。どうやら甘えているらしい。
こうなった華侯焔は好きにさせたほうがいい。俺が諦めてされるがままになっていると、隣で澗宇が困り顔で苦笑しつつ、頭を下げてきた。
「兄がすみません。僕と白鐸で説教をしていたら拗ねてしまいまして……」
「……これが華侯焔の素なのか?」
「こちらの兄はずっとこんな感じです。普段できないことを、ここぞとばかりやってるみたいで……」
どうやらゲームの中では弟の前でもこの調子らしい。
東郷さん、現実だとストイックで分かりにくいのに……我慢している分だけ、華侯焔の時は奔放に生きているのだろう。
憶測はできるが、現実と仮想の落差が大きくて未だに慣れない。
澗宇も同じ気持ちなのか、困惑とともに俺への共感も伝わってくる。
こんなところでも同志なのだな、俺と澗宇は。
親しみを労いを覚えつつ、俺は澗宇に話を切り出した。
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