魔物の事情

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 このゲームの恩恵を一番受けているのは、ルールを悪用して敗者を奴隷同然に扱い、現実でも闇深いことに手を出している志馬威――柳生田さんだ。  もしこの世界が消えてしまい、敗者が解放されたなら、一番面白くない人でもある。どうにかして『至高英雄』が終わらないように手を打ち、格付け一位であり続たいと動いているだろう。  そこまで考え、俺は慌てて澗宇に告げた。 「待ってくれ。そんな重要な話を、ここで堂々としても大丈夫なのか? 相手に知られてしまうのではないのか?」  この世界は、どこで誰が見聞きしているか分からないもの。  ゲームだから監視システムがあると考えていたが、この世界が魔法であると知ったからには見え方も変えねばならない。  魔法でこの世界を監視しているとしたら?  ずっと華侯焔は俺たちの狙いを気づかれないようにと、色々な手で誤魔化してきた。それなのに、このまま何も対処せず真実の話をしてもいいのか?  心配する俺の頭を、華侯焔が小さく笑いながら撫でてきた。 「もう知られていいと思ったから言ってるんだ。なあ、澗宇?」 「はい。誠人さんが一位に挑むために動き出しましたから。僕たちも今まで蓄えてきたものを解放するのみです」  澗宇が俺の顔を真っ直ぐに見て、あどけない笑顔を浮かべる。迷いのない目。どれだけ容姿が似ていない兄弟でも、心の強さは同じに感じる。  俺たちが世界の境目に行っている間、兄弟でこの件について話をしていたのだろう。もしかすると、俺がゲームを始める前からこの絵を想像してきたのかもしれない。  頼もしいと思う反面、小さな引っ掛かりを覚える。  このまま華侯焔たちが作り上げた道を、進み続けてもいいものか――。  俺が頭を働かせている中、才明がおもむろに口を開いた。 「……澗宇様の狙い、よく分かりました。つまり魔物が出入りする目的を把握し、彼らを支援し、大義を果たす時に協力を仰ぐ――実質、我らの陣営と魔物たちは同盟を組んでいるもの、ということなのですね」 「はい。正式なものではありませんが、この領地の方針と支援の積み重ねで、彼らの信頼は得られていると思います。そして芭張が僕たちの元に来てくれた……意志の疎通を図り、進軍に合わせて協力を得ることは可能かと」  あどけなく優しい顔のまま、澗宇は戦う意志を覗かせる。非力で武に恵まれていない分、知と仁の心で戦い続けてきたことがうかがえる。  才明と澗宇の話に、芭張が割って入る。 「もちろんです。我が主を救う好機を逃すことはしませぬ。各地で潜伏している同胞たちに伝え、時が来ればともに決起致しましょう」 「心強い言葉、感謝しますよ芭張殿。よろしければこれからのことを、芭張殿と白鐸も交えてお話させて頂くことはできませんか、澗宇様?」  距離を縮めながら尋ねてきた才明に、澗宇は「もちろんです」と快諾する。  そうして三人が話し込み始めた中、英正は侶普に近づき、小声で話しかけている。何か相談をしているのだろうか、二人とも真剣な顔つきだ。  どちらの話に混ざるべきかと考えようとしたその時。 「じゃあ俺たちは先に休ませてもらうぞ。必要な打ち合わせは才明と白鐸で済ませてくれ」  突然華侯焔が才明たちに責任を押し付けたかと思えば、俺を抱え上げ、肩に担いでしまった。
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