208人が本棚に入れています
本棚に追加
●甘く壊す男
◇ ◇ ◇
目覚めると、ほのかな油灯の明かりが部屋を照らしていた。
規模は大きくない。初期の頃に見た領主の部屋と同じような天井だ。
手に触れる滑らかな敷布の感触で、俺が寝台に寝かされていることに気づく。
ゆっくりと身体を起こして辺りを見渡しても、既視感はあるが覚えのない部屋だ。
まさか、居城とは違う城に運ばれた?
新たな戦が起きたと言っていたが、もしやその戦で落とした城に俺はいるのか?
頭が上手く働かない。心の整理ができていない上に、おかしな事態が起きて理解が追いつかない。
そんな状態でも、これだけは分かる。
前準備もなく動き出し、即座に城を落としまう将など、俺は一人しか知らない。
ゴッ、ゴッ、と足音が近づいてくる。
一旦部屋の前で立ち止まった後、扉を開き、俺を見て彼は嬉しげに微笑んだ。
「おはよう、誠人。起きてくれて良かった」
「……焔……」
言葉が出てこない俺に、華侯焔は近づき、頬に手を添えて唇を優しく奪う。
いつもはもっと人の欲情を煽るような、淫らに舌を絡ませてくるキスをしてくる。こんな俺をうかがうような、ただ唇を重ねたかっただけの口づけは初めてで、なぜか俺の胸が詰まってしまう。
唇を離すと、華侯焔は俺の目を覗き込み、頭を撫でながら囁く。
「ちょっと誰にも邪魔されずに話したかったから、近くの城を落とした。中にいたヤツらも全員追い払ったから、ここには俺たちしかいない」
二人きりで話をしたいがために戦を一人で……。
この豪快さは華侯焔らしいな、と思わず吹き出してしまった。
「本当にやることに容赦がないな……俺の部屋では駄目だったのか?」
笑ってしまった俺につられて華侯焔も笑う。
気を許し合った空気が流れていたと思っていたが、
「ああ。あそこだとデカ毛玉の加護が強すぎるからな。誠人を完全に堕とし切れない」
さらりと言った華侯焔の言葉に俺は固まる。
「……何を言っているんだ?」
「白鐸のヤツ、誠人が元の世界に戻っても辛い思いをしないように、ずっと加護を与えていたんだ。だからあれだけ俺たちに抱き潰されても、誠人は正気でいられた……催淫の軟膏も使われてイキまくっていたら、普通は壊れる。男に抱かれることしか考えられない身体に成り果てる」
全身から血の気が引いていくのが分かる。
ただ気分を高めるだけの睦言ではない。華侯焔は低く甘い声で、俺に事実を突きつけている。
今すぐこの場から逃げなければ。
頭は焦るのに、俺の身体は動いてくれない。
心臓が大きく脈打つ。
その度に胸の先端が、下腹部が、腰の奥が甘く疼いてしまう。
頭を撫でてくる大きな手が、俺の背を撫で、腰まで降りていく。
ぞくぞくと疼いて、身体の芯が壊れていくのが分かる。
このまま身を委ねてしまえば、俺は――。
危機感ばかりを膨らませる俺をあざ笑うかのように、華侯焔は俺の耳を甘くかじり、口づけた。
「今から仕上げてやるからな。俺のことしか考えられない身体に……誠人、愛してる」
最初のコメントを投稿しよう!