●甘く壊す男

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●甘く壊す男

   ◇ ◇ ◇  目覚めると、ほのかな油灯の明かりが部屋を照らしていた。  規模は大きくない。初期の頃に見た領主の部屋と同じような天井だ。  手に触れる滑らかな敷布の感触で、俺が寝台に寝かされていることに気づく。  ゆっくりと身体を起こして辺りを見渡しても、既視感はあるが覚えのない部屋だ。  まさか、居城とは違う城に運ばれた?  新たな戦が起きたと言っていたが、もしやその戦で落とした城に俺はいるのか?  頭が上手く働かない。心の整理ができていない上に、おかしな事態が起きて理解が追いつかない。  そんな状態でも、これだけは分かる。  前準備もなく動き出し、即座に城を落としまう将など、俺は一人しか知らない。  ゴッ、ゴッ、と足音が近づいてくる。  一旦部屋の前で立ち止まった後、扉を開き、俺を見て彼は嬉しげに微笑んだ。 「おはよう、誠人。起きてくれて良かった」 「……焔……」  言葉が出てこない俺に、華侯焔は近づき、頬に手を添えて唇を優しく奪う。  いつもはもっと人の欲情を煽るような、淫らに舌を絡ませてくるキスをしてくる。こんな俺をうかがうような、ただ唇を重ねたかっただけの口づけは初めてで、なぜか俺の胸が詰まってしまう。  唇を離すと、華侯焔は俺の目を覗き込み、頭を撫でながら囁く。 「ちょっと誰にも邪魔されずに話したかったから、近くの城を落とした。中にいたヤツらも全員追い払ったから、ここには俺たちしかいない」  二人きりで話をしたいがために戦を一人で……。  この豪快さは華侯焔らしいな、と思わず吹き出してしまった。 「本当にやることに容赦がないな……俺の部屋では駄目だったのか?」  笑ってしまった俺につられて華侯焔も笑う。  気を許し合った空気が流れていたと思っていたが、 「ああ。あそこだとデカ毛玉の加護が強すぎるからな。誠人を完全に堕とし切れない」  さらりと言った華侯焔の言葉に俺は固まる。 「……何を言っているんだ?」 「白鐸のヤツ、誠人が元の世界に戻っても辛い思いをしないように、ずっと加護を与えていたんだ。だからあれだけ俺たちに抱き潰されても、誠人は正気でいられた……催淫の軟膏も使われてイキまくっていたら、普通は壊れる。男に抱かれることしか考えられない身体に成り果てる」  全身から血の気が引いていくのが分かる。  ただ気分を高めるだけの睦言ではない。華侯焔は低く甘い声で、俺に事実を突きつけている。  今すぐこの場から逃げなければ。  頭は焦るのに、俺の身体は動いてくれない。  心臓が大きく脈打つ。  その度に胸の先端が、下腹部が、腰の奥が甘く疼いてしまう。  頭を撫でてくる大きな手が、俺の背を撫で、腰まで降りていく。  ぞくぞくと疼いて、身体の芯が壊れていくのが分かる。  このまま身を委ねてしまえば、俺は――。  危機感ばかりを膨らませる俺をあざ笑うかのように、華侯焔は俺の耳を甘くかじり、口づけた。 「今から仕上げてやるからな。俺のことしか考えられない身体に……誠人、愛してる」
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