●見せたい真実

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 目覚めると俺は、東郷さんの腕の中だった。 「おはよう、誠人君……身体は大丈夫か?」  俺を覗き込みながら尋ねてくる東郷さんの顔は、どこか残念そうに眉間を寄せながら微笑んでいる。  いつになく身体が重い。形がないはずの心にすら重みを感じて、東郷さんに応えられない。  無言の俺を優しく抱き包み、小さな声で東郷さんが「すまない」と呟く。  それから身体を起こし、ベッドから抜け出た。  鍛えられた東郷さんの裸体が晒され、思わず見入ってしまう。  どこまでいっても強くて、俺が敵わない人。  ……なのに、どうして自分よりも弱いはずの俺に、ここまで回りくどいことをするのだろうか?  絶対に逃すまいと罠を何重にも仕掛け、追い詰め、確実に弱らせて仕留めようとする慎重さ。  まだ昨夜の余韻で上手く考えられずにいると、東郷さんが服を用意しながら俺に話しかけてきた。 「しばらく休んでいればいい。俺が家まで送っていくから」  まだ声を出せず、俺はかすかに頷いて意思を伝える。  弱ったままのような俺の反応に、東郷さんが申し訳無さそうに顔を歪ませる。そして軽く目を閉じながら話を続けた。 「……家に戻る前に、誠人君に会わせたい人がいるんだ。その上で、俺の話を聞いて欲しい」  ようやく東郷さんが真実を教えてくれる。  少しだけ胸が軽くなり、ようやく俺は声を出すことができた。 「誰、ですか?」 「俺の弟だ」  東郷さんの弟――澗宇の現実の姿。  仲林アナが才明を通して教えてくれた、所在が不明の弟。  頭が少しずつ起きてくる。  力が出てこないのは、何度も抱き潰されただけじゃない。裏切られたことがまだ尾を引いているせいだ。  だが、東郷さんが誤魔化さずに真実を見せようとしてくれている。  裏切りの理由を明らかにしてまで、俺が今まで貫こうとした道を変えようとしている。  弱ってなんかいられない。  俺は東郷さんに約束したんだ。俺が全部背負う、と。  四肢を震わせながら、俺は身体を起こし、ベッドを出ようとする。  床に足をつけて立ち上がろうとした瞬間、俺の膝が崩れ落ちそうになる。 「危ない!」  咄嗟に東郷さんは俺に腕を伸ばし、支えてくれる。 「……すみません、東郷さん」 「無理はしないほうが――」 「大丈夫です。早く弟さんに会わせて欲しいので」  俺は東郷さんの腕にしがみつきながら、膝に力を入れ、自ら立つ。 「知りたいんです、東郷さんのことを」  今日、初めて東郷さんと目を合わせる。  熱を帯びながら、憂いを滲ませた眼差し。  フッ、とその目を和らげると、東郷さんは俺に頭を下げた。 「ありがとう……」  掠れた声で呟かれた感謝は、ひどく重たい響きを孕んでいた。
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