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才明の決断
技を繰り出しても気は抜けない。相手は華侯焔だ。これぐらいで倒せたならば、『至高英雄』での最高の称号は与えられていない。
反撃がすぐ来ると体勢を整えた矢先、炎の渦に人影が覗く。
それは腕を高く上げ、勢いよく振り下ろす。
刹那、炎が裂け、熱い突風が俺を強く押した。
「うわ……っ!」
風圧で俺の足が地面から浮きそうになる。
腰を落として重心を下げても、ジリジリと押されてしまう。
まぶたも開けづらく、目を細めて華侯焔から視線を逸らすまいとしていたが――炎の渦の中にその姿はなかった。
どこに行った? 瞬きした一瞬で姿を消したというのか?
驚きで息を引いた瞬間、
「筋は良いが、威力はまだ足らないな」
背後から華侯焔の声して、咄嗟に竹砕棍を振り回しながら振り向く。
パシッ、と大きな手が竹砕棍を掴み、止めてしまう。
不敵に笑いながら、華侯焔が俺を見下ろしていた。
「誠人、力の温存なんざ考えるな。本気を出せ」
言い終わらぬ内に、華侯焔は竹砕棍を持った手を振り下ろし、俺ごと空へ放おり飛ばす。
すかさず英正が俺を抱え、着地する。
その勢いを活かし、俺たちは地を蹴り、華侯焔へと再び挑んでいく。
一糸乱れぬ動きと、疎らな動きを織り交ぜ、戦いのリズムを読ませまいとしながら俺たちは攻撃を続ける。
だが、どれだけ打ち込んでも華侯焔はかわし、槍で受け流し、一切の攻撃を受け付けない。
一対多数の戦いだというのに、まるで稽古をつけてもらっている時と変わらない気がしてくる。悔しい。初めて竹砕棍を手にし、華侯焔と手合わせした時と同じだなんて。
俺たちが攻め続ける最中、上空から白鐸が急降下してきた。
「華侯焔ーっ!」
体当たりしようと勢いよく華侯焔に向かっていくが、
「邪魔するな、デカ毛玉」
俺と英正を相手したまま、自ら手を伸ばし、白鐸の毛を鷲掴みする。
そして、そのまま俺たちに投げてぶつけてきた。
「あああーッッ!」
大きく叫びながら白鐸が俺と英正を打ち付け、自らも跳ね飛ばされる。
思わず地面に倒れてしまい、慌てて起き上がろうとするが――急に身体が重たくなり、己を支える腕が情けなく震えた。
まさかと思い英正を見れば、青白い微光は消え、毛の逆立ちも収まっていた。
合わせ技の効果が切れた。
もう一度発動させるには、呼吸を整え、新たに気を高め合わせていくことが必要だ。
本来なら白鐸が回復してくれるが、華侯焔の槍の柄の先で押さえつけられ、じたばたともがくばかりだった。
「離しなさいー、この裏切り者ー! アナタが誠人サマをここまで育てたのに、どうして壊そうとするんですかー! 力が強いだけの弱虫のクセに――」
いつものような悪態をつこうとする白鐸を、華侯焔は槍の柄先で押さえる力を強める。
「お前だけには言われたくないな。どっちつかずの臆病者が。真の姿になれないのがその証だ」
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