●英正が抱えていたこと

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 口づけの後はどうなっていくか――教え込まれてしまった身体は安易に熱と疼きを孕み、後孔の奥が物欲しげに脈打つ。  乱されたい衝動に駆られていると、不意に英正が俺を抱き上げ、寝台へ足早に運んでいく。  そうして丁寧に俺を寝かせてすぐに、英正は俺に身体を被せてくる。  だが俺をもどかしげな顔で見下ろすばかりで、先へ進めようとはしない。 「……英正?」 「誠人様……私は何もできませんでした。倒すべき者を倒せず、ただ軽くあしらわれた挙げ句、誠人様の危機に動くこともできず……才明様の力がなければ、すべてが終わっていました」  英正が絞り出すような声で胸の内を明かしてくれる。  そんなことはないと告げる間もなく、小さく掠れた声で話は続く。 「何も成せなかった者に、褒美など無用。それでも片翼を失った穴を埋めるために、どうか……あの者の代わりを担わせて下さい」  俺の心を見てしまっている英正には隠すことができないようだ。  未だに俺の中には華侯焔がいて、見苦しく諦めまいとしていることを。  真剣で苦しげな目。その奥に灯る情欲の火の熱さを、無理に押し込めているのが分かってしまう。  どんな思いで言っているのか見えてしまい、俺は小さく首を横に振る。 「誰かを代わりにする気はない。焔は焔、英正は英正だ」 「……分かりました。差し出がましい真似を――」  悲しげに顔を歪めながら、英正が俺から離れようとする。  ギュッ、と。咄嗟に俺は英正の腕を掴み、引き留めた。 「褒美とか、代わりとか、理由はなくていい。このまま続けて欲しい」 「え……よろしいのですか?」 「今は英正に応えたいんだ。頼む……」  合わせ技を強めるためでも、喪失感を慰めるためでもない。ただ英正を全身で感じたい。  心は華侯焔に囚われたままでも、英正に手を差し出したくてたまらない。  自分が消える恐怖よりも、俺のために尽くすことを選び続けた英正に、この世界に生を受けてしまったことを悔いて欲しくなかった。  俺が許すと、英正の顔がさらに泣きそうに歪む。  だが口端は引き上がり、歓喜を滲ませていた。 「誠人様――」  勢いよく唇が奪われる。  焦らそうという余裕すらなく、英正は俺の口内を舌で激しく掻き回し、落ち着きのない手つきで俺の帯を解きにかかる。 「んっ……ン……ッ」  早く俺が欲しい気持ちが伝わってきて、俺も英正の帯を解き、服を脱がしにかかる。互いの服が乱れ、はだけた肌から熱が漂い、触れ合った瞬間に小さな痺れが走り抜けた。
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