意外な来訪者

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意外な来訪者

   ◇ ◇ ◇  まぶた越しに明るさを感じ、意識が浮上していく。  身体が温もりに包まれている。気を抜けばまた眠りの淵へ戻ってしまいそうな心地良さに、思わずうとうとしそうになってしまう。  かすかに感じる自分以外の吐息。  一瞬、ここしばらくのことは夢だったのかと思いそうになる。  朝の目覚めで俺を抱き包むのは、いつも焔だったから。  胸の奥が熱く疼いて、抱きつきたい衝動が込み上げてくる。  それでもまだ目覚めきれていない身体が思うように動かず、まぶたを開けることで精一杯だった。  鈍い動きでまぶたを開き、俺を抱く相手を視界に入れる。  未だ深い眠りの底にいる英正を目に映した途端、俺の頭は完全に目が覚めた。 「あ……」  思わず声が溢れ、鼻の奥がツンとなる。  俺の隣に華侯焔がいない現実に、まだ心がついていけていないことを思い知る。  ただ、完全に吹っ切れたのか、俺を心行くまで求めたいという願いが叶ったせいか。英正の寝顔が穏やかで、あどけなさすら覗いていて、その顔に胸が慰められた。  ジッと見つめていると、俺の視線に気づいてか、英正のまぶたがわずかに開く。  視線が合った途端、英正がまだ眠そうな顔を俺に近づけ、唇を重ねてきた。  押し当てるだけのキスに、朝から全身が甘くざわめていてしまう。  そのまま俺の背から腰へと手を這わせ、昨夜の続きをしそうになる英正の肩を、俺は慌てて揺らした。 「え、英正、朝だぞ。寝惚けて朝から俺を、抱き潰そうとしないでくれ」  ピタリ、と英正の動きが止まる。そして次第にまぶたがしっかりと開かれ――。 「……っ、た、大変申し訳ありません!」  勢いよく英正が跳ね起きて俺から離れたかと思えば、両手をついて頭を下げてくる。  ……ああ、なんて新鮮な反応なんだ。開き直って抱き潰してくる華侯焔とは大違いだ。  つい小さく吹き出してから、俺は首を横に振った。 「そんなに恐縮しないでくれ。好きにしていいと言ったのだから、どうしてもというなら応えるしかないが……寝惚けて抱かれるのは、な。それに今日は忙しくなる。朝から動けないのは困るんだ」  頭を上げて申し訳無さそうに顔を曇らせる英正に近づき、俺は自分から口づけを与える。  すぐに離れて顔を見れば、英正は虚を突かれて目を丸くしていた。  初々しい反応を微笑ましく思いながらも、俺は心を落ち着け、真っ直ぐに英正の目を見つめた。 「華侯焔が去った今、戦力の要は俺と英正になる。片時も離れず、ともに駆けてもらうぞ」 「……はいっ、誠人様」  英正が俺の視線をしっかりと受け止め、迷いなき澄んだ瞳で見据えてくる。  頼もしく成長した英正に、俺もそうあらねばと思えて力が湧いた。
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