意外な来訪者

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 朝食を終えてすぐに軍議の部屋に向かうと、才明が地図を広げ、敵味方に見立てた駒を置いて唸っていた。  いつもは後頭部の上のほうでまとめている髪が緩み、今にも崩れ落ちそうになっている。目の下の隈は濃く、疲弊していることがうかがえる。 「才明……まさか昨日からずっとここに?」  俺が話しかけると、才明は小さくハッとなり頭を上げる。その勢いで髪は完全に解け、くたびれた背中に流れた。 「おはようございます誠人様。ええ、志馬威と戦うための手を考え続けておりました」  力なく笑ってから、才明は視線を地図に戻す。わずかに眉間が寄り、厳しい状況なのだと伝えてくる。 「……澗宇様の援軍が期待できるとはいえ、やはり戦力差は大きいですね。ましてや華侯焔が敵陣営に寝返ってしまいましたから、攻め所が難しいですよ」 「土台を築き、ここまでの筋道を作ったのは華侯焔だからな。俺たちの手の内は知り尽くされている……何か新しい力を身につける必要はあるが、猶予は――」 「まったくありませんね。きっと今日中に志馬威の軍がこちらに向かっている、という報告があるでしょう。頭が痛くなってきますね」  俺の言葉に才明が苦笑を漏らす。他の者なら絶望して諦めてしまうのだろうが、それでも才明からは一切諦めの気配はなかった。 「幸い、私と誠人様の合わせ技はまだ未知の部分がありますし、この世界に潜伏している魔物たちの力も借りることはできますので、正面突破は無理でも、意表を突いて風穴を開けることは可能だとは考えています」 「華侯焔が知らない力や術を見出していけば、それだけ勝機が生まれる……ということか」 「はい。あの御仁がすぐに反応できず、苛立つようなことを仕向けなければ。嫌がらせを考えるのは得意ですからね。私を本気にさせたことを後悔させてあげましょう」  ずっと寝ていない上に疲労もひどいせいか、才明が不敵に笑う。明らかに華侯焔に対して怒りを覚えている。倍返しの復讐をしないと気がすまない、という気配がヒシヒシと伝わってくる。  そして、ふと俺を見て才明がぽつりと呟く。 「……誠人様の心を私が横取りすれば、深海よりも深く後悔させられそうですが」  冗談めかしながらも、どこか不穏で重みのある気配に俺はドキリとする。  少しは休んだほうがいいと声をかけようとしたその時、扉の向こうから英正の声がした。 「誠人様、客人がいらっしゃいました」 「客人?」  首を傾げながら扉を開けると、英正の後ろに背が低くてがっしりとした体つきの老人がいた。 「鉄工翁! なぜここに?」  思わず驚く俺に、鉄工翁はニヤリと笑い、自分の背中を指さす。  背負っている己の身体よりも大きな荷袋からは、布で包んだ棒状のものが何本も出ていた。 「今すぐお渡ししたいものがありましてな。必ずや領主様のお役に立ちましょうぞ」
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