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話を聞きながら、俺の脳裏に当時の依頼主が鉄工翁を振り回していた様子が鮮やかに浮かんでくる。直接見たことはないのに、彼が取ったであろう言動がわかってしまう。
俺も最初の頃は強引に道を決められ、進まされたものだと懐かしく思っていると、鉄工翁が布を開いて中の物を取り出した。
形は俺が持っている竹砕棍と同じ、両端に摘みがある長い棍。
しかし色はわずかに飴色がかっており、触れずとも何かをまとっている気配が伝わってくる。
おもむろに鉄工翁は、俺に棍を差し出した。
「誠人様、どうかこちらをお納め下され」
「これは……?」
「以前お渡しした竹砕棍の機能を半分残しつつ、もう半分に前へ長く伸び、鞭のようにしなる機能を取り付けました。技の威力も大きく向上するかと――名は昇龍棍と申します」
話を聞きながら昇龍棍を受け取った瞬間、手におそろしく馴染んで思わず落としそうになる。竹砕棍の時も手によく馴染んだが、これはその比ではない。
最初から自分の一部だと感じてしまう武器。握っているだけで全身から力が湧き、どんな難敵でも負けぬ気概が芽生えてくる。
まじまじと昇龍棍を見つめていると、鉄工翁がさらに言葉を添えてくれた。
「昇龍棍は誠人様のためだけに作った物。別の者がこの地の領主になり、この武器を手にしたとしても、真の力を発揮することはできませぬ」
「……俺がこの世界に来る前から、俺のために作っていたということか?」
「深くは聞かないで下され。彼の者に恨まれる訳にはいかないので」
軽く頭を下げた鉄工翁に、俺は「詮索してすまない」と謝罪する。
二つの世界の真実を知った今、多くを聞かなくても察することができた。
俺を巻き込み、覇者とならせるために仕込んだこと。
自らが壁となって覇者への道を阻み、俺を追い詰めようとしているのに。
誰が依頼主かも、この武器にどんな思いを込めたのかも見えてくるが、なぜ矛盾したことを最初から計画していたのかが分からない。
つい神妙な顔をしていると、鉄工翁は英正や才明にも武器を渡していた。
ほのかに金色の光を帯びた槍と、緑がかったコンパウンドボウ。どちらからも力が溢れているのが肌に伝わってくる。
「英正殿にはこの雷獣槍を。雷獣化する者の力を増やし、稲妻のごとくの素早さを得ることができますぞ」
「……っ! ありがとうございます、鉄工翁殿。これで今までよりも誠人様のお役に立つことができます!」
槍を手にした英正が表情を輝かせ、鉄工翁に満面の笑みを向ける。相変わらずの素直さと分かりやすさが微笑ましい。
それに対して才明は武器を手にしても表情が変わらない。手元をジッと見つめるばかりで、やっぱり心の内が読めない。
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