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「才明殿のものは、叡智の弓。攻撃力もありますが、持つ者の精神を研ぎ澄ませ、望むままに戦況を読ませることができますぞ」
「なるほど、純粋な強さよりも特殊能力が主ですか。確かにこれなら軍師として力を発揮することができますね……」
話しながら才明の頭がフラフラと揺れ出す。
「ああ……これで、打てる手が増えます……あの人の狙い通り、ということは気に入りませんが」
「そのお気持ち、よく分かりますぞ。ワシも思う所がありましたのでな、勝手に一般兵用の特殊弓にも、いくつか属性を付けておきましたぞ」
鉄工翁がどこか茶目っ気を出した笑みを浮かべる。
一般兵用ならば量が多いはず。それらに手を加えてくれたという鉄工翁の心付けに、感謝してもし切れない。
「ありがとう、鉄工翁。なんと礼を言えばいいか――」
俺が鉄工翁に拝手して礼を告げようとした時だった。
「本当に、感謝します……これで誠人様に、覇者への道を、示すことが……」
才明の身体が大きく揺れ、体勢を崩す。
咄嗟に腕を伸ばしてその背を支えれば、才明は完全に脱力して寝息を立て始めてしまった。
勝てる算段が見えて、緊張の糸が解けたのだろう。昨日の夜から寝ていないようだから、致し方ないと思っていたが、
「才明様は昨日誠人様を救出する際も、前日から不眠不休で誠人様の行方を探しながら、城内の混乱を収めようと必死でした……その疲れが出てしまったようですね」
英正が眉間を寄せながら、心苦しげに教えてくれる。
なんてことだ。俺を助けに来る前から寝ていなかったのか。
その前まではずっと俺のことで頭を悩ませていた。どれだけ心労を重ねてきたのだろうかと思うと、胸が締め付けられてくる。
「誠人様、私が才明様を部屋にお運びします」
「……いや、俺が運ぶ。こんなことぐらいで、今までの才明の苦労に報えるとは思えないが」
俺は才明を抱き上げて顔を覗き込む。
疲弊しきった顔。それでも気が抜けて力みがない。
今はしっかり休んでもらおう。そして、できれば起きた時に二人で向き合って話をしたいと思う。
間もなく志馬威の軍勢が攻めてくる。残された時間は多くない。それまでの間に俺は、確かめなければいけないことがある。
真実を掻き集め、繋げ、与えられた真実のその先を見出さなければ――。
鉄工翁が帰り、才明を寝かせた後。俺は一人で城を出た。
このゲームを始めて、最も長く一緒に居続けた者。
本当はもっと早くに向き合い、その本心を探るべきだった相手を探すために。
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