●愛好者

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 心のどこかで本気をぶつけたかった華侯焔や、最初から想いを秘めていた英正と違って、才明の根底にあったのは目的のため。ゲーム攻略に必要があるからと、割り切って俺を抱いてきた。  合わせ技を発動させる前までは、攻略目的でも俺を心から求めることを躊躇していた。どれだけ求めても、東郷さんから俺を奪うことはできないからと――。  そんな才明が、なりふり構わず俺を求めようとしている。  現実でも繋がりがある相手だけに、このまま受け入れてしまうことに抵抗を覚えてしまう。  褒美を与えるためにも、合わせ技の威力を高めるためにも必要なことだ。  心の中で怖気づきそうな自分に言い聞かせていると、才明が俺の手をそっと握った。 「誠人様、こちらへ。床に崩れ落ちてしまわれると、私では華侯焔のように軽々と抱き上げられませんから」  小さく笑いながら冗談めかせると、才明は俺を寝台に座らせ、目前で跪く。  顔上げて俺を見上げるその顔に陰りはなく、どこか恍惚としたものがあった。 「ふふ、嬉しいものですね。こうして心を向けるだけで私を意識して下さる。私でも誠人様の心を乱すことができるのですね」 「……才明、あまり俺をからかわないでくれ」 「本心ですよ。あの方に身も心も奪われていることは承知しています。だから私がどれだけ本気をぶつけても、困らせるだけだと……私のような者が、心を深く揺らすことなど叶わないと思っていましたから」  言いながら才明は俺の手を取り、恭しく手の甲に唇を落とす。  まるで騎士が忠誠を誓うような態度と、こそばゆい唇の感触に、俺の鼓動が大きく跳ねた。  小さな動揺の数々に気づいていると言いたげに、才明は口端を引き上げた。 「私はね、誠人様……貴方の愛好者になる道を選んだのですよ。要はファンです」  もう一度手の甲に口づけると、指にも柔らかなキスを与えてくる。  音もなくゆっくりと繰り返される手への刺激。時折、才明の舌先が当たり、俺の身体がピクリとなる。  ささやかだからこそ、過ぎた快楽を覚えてしまった身体が貪欲になりたがる。  もっと俺を激しく奪って欲しいという欲が膨れ上がっていく中、才明は俺の指先を舐め、甘くかじり、わずかに感嘆の息を漏らす。 「本当は合わせ技を放てるほど心を捧げる気はなかったのですが、誠人様が華侯焔に敗北を与えられそうになった瞬間に吹っ切れました。貴方が負ける姿を見たくない、と」  才明の本音を聞きながら、俺は身体に熱が孕むのを感じていく。  優しく理性が壊されていくのを感じていても、今の俺には才明を止めることはできなかった。 「どちらの世界でも、誠人様には勝ち続けてもらいたい。その本心に気づいて、ようやく貴方を深く想う覚悟ができました。振り向いてもらわなくてもいい。熱狂的なファンとなれば、一方的に込み上げる想いをぶつけることができますから」 「才明……それでいいのか?」 「いいどころか、最高です。私たちがどのような間柄になったとしても、命尽きるまでずっとできること。たとえ誠人様が私の手の届かない所に行くことになったとしても、想い続け、思い出の数々を愛でて幸せに浸れます」
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