●愛好者

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 あれだけ踏み込むことを悩んでいたはずなのに、才明が出した答えは見返りを求めない一方的な関係。  諦めとも開き直りとも取れそうだが、才明の顔には憂いがない。むしろ心から喜んでこの道を選んだように見える。  だが、本当にそうなのか?  才明は自分を隠すのが上手い。すべてを曝け出していると感じたのは、潤宇の元へ向かう途中に悩みを打ち明けてくれた時ぐらいだ。  どうしても訝しんでしまう俺の手を愛でながら、才明は愉悦の眼差しで俺を覗き込んでくる。 「誠人様、愛しています……たとえ心がここにあらずとも、どれだけ想いを捧げて尽くしても、選ばれはしないと分かっていても」  少し強く、才明の歯が俺の人差し指を噛む。  柔らかな唇と舌の戯ればかりだったところに与えられた、確かな感触。身体の芯がぞくりと疼いた。 「どうか今からその御身を味わうことを許して頂けますか? 永久に忘れぬよう、ゆっくりと私に誠人様を刻ませて下さい」  強請るように才明の唇が、俺の手の平に押し当てられる。すでに許しは与えているはずなのに、改めて俺に答えさせようとする才明から思惑が覗く。  わずかな期待を抱かぬために、俺に答えさせようとしている。  どれだけ行為を重ねても、心を向けられることはないと。  身体は早く快楽に浸りたいと、頷いて才明に許しを与えたがっている。  胸の奥は、才明の献身に甘えてしまいたいと揺らいでいる。  真実を知ってしまった今、身も心も深く繋がってしまった華侯焔を、俺の中から消すことはできない。  才明や英正に、過ぎた快楽を覚えてしまった身体を慰めてもらうことはできても、心は彼らを代わりにはできないと焔を恋しがってしまう。  俺にとって才明が出した答えはありがたいものだ。  頷くことしかできないというのに。それでも躊躇してしまうのは――。 「……誠人様」  掠れた声で名を呼ばれ、俺は我に返る。  恍惚に蕩けた才明の瞳が細まり、かすかに切なげな色が滲んだ。 「何も言わずとも、態度がすべて教えてくれます……私には貴方が頷けなかった、という事実だけで十分。いえ、それですら身分不相応なほどです」  才明の唇が俺の手首に落ちる。そして愛おしげに俺の手に頬ずりしてから立ち上がり、顔を近づけてきた。 「少々意地悪が過ぎましたね。どうか貴方は心のままに。私は心から受け入れるだけ――」  言葉の途中で唇を重ねられ、全身に淫らな痺れが走り抜けていく。  もったいぶらずに口内を熱い舌で乱され、ようやく欲しかった刺激に腰の奥が何度も跳ねる。ついには甘く弾けて視界が点滅し、脱力した身体が才明に寄りかかってしまう。  唇のまぐわいに蕩けていく俺をからかうように、才明がわずかに顔を離し、欲情に崩れた俺を見つめた。 「これからもっと気持ちよくして差し上げますから……今夜だけは、私に囚われて下さい」
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