●その顔が見たかった

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●その顔が見たかった

 どう返事をすればいいか困ることを口にしながら、才明はすぐに俺の唇を奪う。  ようやく触れてくれると悦びに騒ぎ出す身体とは裏腹に、才明の手は服の上を優しく這うばかり。小さなこそばゆさに頭の芯が痺れてくる。  ずっと抑えてきた貪欲さを思い切りぶつけて欲しい。そう願ってやまないのに、才明から与えられる刺激はささやかなままだ。  焦らされていると気づいた途端、俺は才明の腕を強く掴んでしまう。  くすり、と才明から笑いが溢れた。 「相変わらず素直な身体ですね。そうやって強請られると応えたくなりますが――」 「……っ」  才明が俺の耳元に息を吹きかける。思わず身をギュッとすくめてしまい、いつもより敏感になりつつあることを自覚させられる。  恥ずかしくてたまらないのに、才明の腕から手を離すことができない。  耳や首筋に唇を落とされる度に、俺の指が才明に食い込む。吐息混じりに小さな喘ぎ声が溢れ、募るもどかしさに目元が熱くなってくる。  緩やかに刻まれていく快感が、やけに身体の奥底まで響く。思わず身を捩れば、才明は俺に重みをかけ、その動きを阻む。 「逃しませんよ。どれだけ貴方が快楽の底に沈もうとも、どこまでもともにいますから。あの方よりも深く、一緒に……」  才明の囁きに俺は息を呑む。  居城から華侯焔に連れ出された俺が、何をされたのか察しはついているだろう。俺を自分のところへ堕とすために、どれだけの快楽を与えられてしまったのか――察した上で、その痕跡を上塗りしようという狙いが覗く。  思わず身体が震えてしまう。悦びと嘆き、縋りつきたい衝動と逃げたいという怯え。様々な感情が入り混じり、平常の俺を壊してくる。  寝間着の前をはだけさせられ、胸から腹部へ才明の唇が幾度も落とされていく。  そうして鼠径部までキスを刻みつけると、才明はおもむろに俺の太腿を甘くかじった。 「あ……ッ」 「フフ、前から思っていましたが……良い脚ですね。よく鍛えられていて、強さが詰まって……ですが――」  太腿の内側を、才明が執拗に口づけ、舌を這わせてくる。  膝近くからねっとりと舐め上げられてしまうと、俺の昂ぶったものがビクッと跳ねてしまう。気持ち良さと弾けたがる痛みが、俺を追い込んでいく。  すでに余裕のない俺の様子を眺め、才明はうっとりと言葉を漏らす。 「弱いですよね、ここ。外側も一緒に刺激されるのが好きなのは、もう分かっていますから」  言いながら才明は太腿の外側を撫で回す。  内と外の刺激に、全身の疼きが止まらない。本当は直接触れて欲しい所には指先ひとつ触れず、太腿を代わりとばかりに舐り、手は緩やかに扱くような動きで上下に撫で続ける。  俺の息が上がっていく。このまま達してしまいそうな気配はしたが、昂りの先端まで快楽が込み上げた途端、才明は俺を刺激する口と手を止めてしまった。
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