昇龍棍の力

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昇龍棍の力

   ◇ ◇ ◇  外に出ると、俺は足早に鍛錬場へと向かった。  先に到着して俺たちの得物を用意してくれた英正が、自分の武器を振り回す姿が目に入ってくる。  金色の光をまとい、雷の力を宿した雷獣槍。  ひと突きするだけで辺りに小さな稲妻を散らし、振り抜けば光の粒が弾ける。  まだ雷獣化していないのに英正の髪が逆立ち、勇ましさが増していく。  槍を振るうほどに集中力が増し、一撃が鋭くなっているのが見て取れる。初めて手合わせした頃の必死さは変わっていないのに、強さは桁違いだ。  頼もしく成長してくれた。  英正がいるからこそ、華侯焔がいない現状でも悲観せず、勝機を見出そうと足掻くことができる。  思わず見入っていると、俺に気づいた英正が動きを止めて俺に顔を向ける。  目が合った途端、勇ましさが微笑みで和らぎ、俺と同年代らしい若者の顔を見せた。 「誠人様、お待ちしておりました! 顔鐡様は大丈夫でしたか?」 「ああ、問題ない。昂命の件は顔鐡に任せることにした。俺たちは武器の確認と、華侯焔をどう攻略するかに専念する」 「分かりました。それではこちらを――」  英正が城の敷地を囲む壁に立てかけていた俺の武器を手に取り、手渡してくれる。  鉄工翁が密かに用意してくれた昇龍棍。  軽く握り込んだ瞬間、淡い赤銅色の光が宿り、うっすらと昇龍の模様が浮かび上がる。  その途端、身体の奥底から力がみなぎり、全身の肌が総毛立つ。  鉄工翁から渡された時も味わった感覚。この状態で戦えば、大地も海も空さえも裂き、どれだけ多くの敵に囲まれたとしても蹴散らせるという確信が芽生えそうだ。  ふと顔を上げ、英正と顔を合わせる。  視線が絡まった直後、互いに得物を素早く構えて振り抜く。  ――ガキィッ。  英正の槍とぶつかり、衝撃が腕に伝わる。  骨の芯まで響くが、今の俺には苦にならない。どうやら守備力も上がるらしい。  英正の表情は微動だにしない。どうやら俺と同様に身の守りも得られているようだ。それならば手加減はなしだ。 「いくぞ、英正」 「はいっ!」  そのまま俺たちは本格的な手合わせを始めていく。  動きのキレは良く、力も入りやすい。  何より全力で棍を繰り出しても、英正ならば直撃することはないという安心感。実戦さながらの戦いができるというのはありがたい。  武器をぶつけ合う度に、光の粒が散り、小さな稲妻が辺りに走る。  続けるほどにそれらは増え、次第に異様な空気を作り上げていく。  戦いの熱気だけでは足らぬ、熱く重い空気の塊。  心なしか棍を振るのが重たくなっていくが、動かせないほどではない。  気にせず棍を繰り出し、攻めを重ねていったその時――炎と灼熱の疾風が真下から渦を巻き、英正を呑み込んだ。
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