昇龍棍の力

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「英正っ、大丈夫か!」  まだ技を発動させていないのに、炎舞撃を放ったような炎の渦が発生してしまい、俺は息を引く。  熱さを感じるのに、俺にとっては少し息苦しさを覚える程度の熱風。  炎が俺をかすっても、火傷するような熱はない。むしろ触れるだけで俺の中に力が入ってくるような感覚がある。炎舞撃の炎よりも橙色が濃い気がする。  本物の炎ではなく、俺の闘気かそれに近いものなのだろう。だから俺にとって害はない。  だが英正にとっては?  勢いよく燃え盛りながら空へ立ち昇り続ける炎の渦を見上げながら、俺が顔から血の気を引かせていると、上空から声が聞こえてきた。 「……だい……ぶ、です! ご安心下さい、誠人様!」  かなり上の方まで飛ばされたらしく、英正の声が遠い。それから急激に大きく鮮明な声となり、俺の目前に着地した。  衣服は燃えておらず、火傷した気配はない。無傷だ。  ただ全身に金色の微光をまとっているところを見ると、少し雷獣化して防御力を上げて対処したらしい。  安堵の息をついてから俺は英正に駆け寄った。 「すまない、まさか勝手に技が発動するとは……」 「炎舞撃と似ていますが、感触が違いますね。見た目ほど炎に熱さはありませんし、何も焼くことがなければ敵を弱らせることもありません。ただ相手を高く吹き飛ばしただけのような――」  英正が口元に手を当てて考え込み、すぐに顔を上げてハッとする。 「そういえば、誠人様と手合わせをしている最中、自分でも意図せずに力が出ていたような気がします。強引に力を出させられているように感じました」  もしや相手の力を利用し、敵の隙を作る技なのか? この昇龍棍だからこそ起きたことだと思うのだが……。  二人で頭を悩ませていると、大きな人影が俺たちの元に近づいてきた。  合わせ技を使っていないにも関わらず、俺たちはピタリと動作を揃えて相手に顔を向ける。  そこには俺の居城にはいないはずの侶普が、軽く驚いたように鋭い目を見開いていた。 「侶普、なぜここに!?」 「志馬威の侵攻を知り、今しがた我が主とともにこちらへ駆けつけたところです。間もなく華侯焔が動くだろうと潤宇様は読まれておりましたので」  一瞬、侶普のまつ毛が伏せられ、憂いの陰が落ちる。  しかしすぐに感情を見せぬ冷静な面持ちに戻り、俺に教えてくれた。 「誠人様が手にしている武器ですが、人の気を高め、周囲の気を場に集めて圧縮させ、強打を加えることで弾けて敵を跳ね飛ばす効果があるようです。おそらく敵が強いほどに、その威力は増すことでしょう」  侶普の話を聞きながら、なぜこの武器が俺のために作られたのかを理解する。  相手が強敵であるほどに力を溜め、その力を返すことができる。  カウンター攻撃。最強の相手を捻じ伏せるための有効な手段。  華侯焔が意図して俺に与えたかった力。  もしかすると、という甘さを含んだ予感が確信に変わる。  手厚い支えと裏切りを重ねてきた狙いは――。 「思わぬ技の発動で、まだ戸惑われていますか?」  侶普に声をかけられて俺は我に返る。  今は戦の準備をしなければ。気を引き締め、短く首を横に振った。 「いいや。この武器の可能性が見えたところだ。侶普、教えてくれて感謝する」
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