潤宇と侶普

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「僕はこの世界でのみ動くことができます。でもそのせいで兄の枷になっている……もう兄には自由になって欲しいんです。僕は、僕の現実を受け入れ、この世界ごと消えることになる侶普の後を追いますから」 「潤宇様……」  そっと侶普が潤宇の肩を抱き、自分の胸へ寄せる。  本当の望みは違うのだろう。侶普の眉間に深いシワが刻まれている。しかし主でもあり、最愛の潤宇の望みを拒むことができない悩ましさが伝わってきた。  覚悟を決めた人間は強い。もしこの世界が存続したとしても、兄である華侯焔を自分から解放するために、現実の命を手放す気がしてならない。  この世界で寄り添いながら生きたい。  それが二人の望みなのだろうが、ここは作られた世界であり、多くの犠牲の上で成り立っていることも彼らは知っている。  だから俺を覇者にするよう支え、この世界を終わらせようとしている。  最愛の者が消え、己の命も終わる未来を受け入れながら――。  不意に俺の隣に英正が並び、思わず俺は顔を向ける。  目に重たい覚悟を宿しながらも、その唇は軽やかに微笑んでいた。 「私も同様の覚悟をしております。どうか誠人様は覇者の道をお進み下さい」  俺よりも先に潤宇たちと接点を持ち、事情を聞かされ、自らの運命を知った英正だ。漂ってくる覚悟が重い。  彼らが生きる道を探りたくてたまらないが、今は華侯焔と対峙しなければいけない。俺は唇を硬く引き締め、英正と目を合わせてから潤宇に尋ねた。 「この非常事態に駆けつけてくれて、本当に感謝している。だが二人でここに来たということは、潤宇も戦場に立つのか?」 「ええ。あくまで後方支援になりますが、戦場にいないと侶普との合わせ技が使えないので」  いったいどんな技を使うのだろうか?  純粋に興味を抱いていると、小走りにこちらへ向かってくる才明の姿が見えた。 「みなさんお揃いで何よりです。これより作戦をお伝えさせて頂きますので、どうか軍議室にお集まり下さい」  潤宇の手前、恭しく礼をしながら才明が俺たちに移動を促す。  すぐさま才明に目配せされた英正が、「こちらへどうぞ」と潤宇と侶普を案内する。  俺がその後に続こうとすると、才明が横に並び、声を潜ませた。 「誠人様、潤宇様が援軍を五万ほど連れて来られました」 「五万……そんなにか」 「しかも我らの領地に近い城に、予備の軍を五万待機させているそうです。どうやら本気で華侯焔と戦って下さるようです」  先行隊と予備兵、合わせて十万。  強さではなく資源と領地の繁栄を重視してきただけあって、兵の数が凄まじい。  本当に頼もしい味方だと思いながら、俺は自分の鼓動が速くなっていることを自覚する。  華侯焔との戦いが近づいている。  援軍も武器も技も、華侯焔がいた時とは大きく違う。それでも勝てるビジョンが浮かばなくて、俺の手の平に脂汗が滲んだ。
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