攻めの姿勢

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攻めの姿勢

   ◇ ◇ ◇  軍議室へ集まってすぐ、才明は机に広げた地図の上に駒を並べ、俺たちに布陣を見せた。 「白鐸や偵察の者から、志馬威側の戦力は把握しています。先鋒の華侯焔が二万、第二陣は三万、後続は五万……まともに相手にすれば、華侯焔の猛攻でほとんどの隊が壊滅し、何もできぬ内に領土を奪われて支配されるでしょう」  俺も英正も、潤宇や侶普も驚きはない。考えずともその流れは想像できる。今さらだ。俺たちはすでに脅威と向き合う覚悟はしている。  だが羽勳や表涼は改めて現状を突きつけられ、血の気が引いていた。それでも表情を引き締め、地図を見つめるその目から戦意は消えていない。  俺たちを見渡し、理解したことを確かめてから才明は話を続ける。 「兵の総数は潤宇様の援軍もあり、今のところ我らが優勢です。しかし兵力で抗っても、志馬威と同盟関係にある領主たちが動くでしょうから、すぐに逆転する……守りの姿勢に活路はないと断言します」  我が身可愛さで守りに入れば、戦力を削がれていき、わずかな勝機すら消える。軍師でなくとも予想がつき、俺は短く頷く。 「攻めるしかないとは俺も思っている。だが、どう攻める?」  フッ、と才明が不敵に笑う。あまりに不利な状況だというのに、その笑みは愉快でしかたがなさそうな顔だった。 「志馬威は華侯焔という最強の駒を使い、大量の兵を動かし、確実に誠人様を潰そうとしています。裏を返せば、自らの守りは手薄ということ。志馬威を落とす好機です」  好機。まさかその言葉が出てくるとは思わず、室内に各々が息を引く音が響く。誰もが顔を上げて才明を見張る中、潤宇が尋ねた。 「とても頼もしいお言葉ですが、何か策があるのですか?」 「はい。これは速攻で勝利を掴み取る道……失敗すれば一日もせず終わりますが、上手くいけば志馬威を討ち取ることができます。我らが生きる道は、超短期の死闘の先にしかありませんから」 「もしや、兄の足止めをしている間に志馬威の元に兵を派遣し、攻撃を仕掛けるということですか? すでに兵を送り込んでいなければできない手段。以前から仕込まれていたとは、さすが――」 「いえ、この世界のシステムを志馬威に握られている以上、その方法はできません。多少のアテはありますが、現時点では有効な速攻を仕掛けられる数はいません」  才明の言葉に潤宇の息が止まる。それでは無理だと言いたげに、彼の大きな目が見開かれる。  俺は動揺を滲ませる潤宇の肩を叩き、覗き込む。 「安心してくれ、速攻の術はある。才明と俺の合わせ技で、兵を送り込むことができるようになったんだ」
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