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ゲームのキャラに腹を立てても仕方がない。
悪いのは、俺を騙してこのゲームへ誘い込んだ坪田だ。
苛立ちのままに腹へ力を入れ、俺はどうにか上体を起こす。
そして、まずはスマホを手にして電話しようとしたが、画面を見て固まる。
ゲームを開始してから、まだ数分も経過していない。
あれだけ何日も滞在していたというのに、実際は数分のできごと。
怒りよりも驚きが上回り、俺は固まってしまう。
ゲームの体感時間と現実の時間が、ここまで違うゲームなんてあるのか?
まさか今までのはゲームではなくて、俺が夢を見ていただけなのか?
胸が嫌な動悸を覚える。
手に冷や汗が滲み、坪田の連絡先に触れる指が情けなく震えた。
トン、と通話を押して応じるのを待つが――いつまで経っても出てこない。
俺を騙したという罪悪感や焦りで逃げているのだろうか。
坪田がその気なら、俺は追いかけるまでだ。
すぐに直接の連絡を諦め、柔道部の中で坪田とよくやり取りをしている同期への連絡に切り替える。
今度はすぐに通話が繋がった。
『どうしたんだ、正代?』
「急に連絡して済まない。実は坪田と連絡を取りたいんだが、どうしているか知らないか?」
『坪田? そういえば、いつも連絡したらすぐに返信くれるのに、さっきから止まってるな……繋がったら教える』
そう言ってくれた同期を信じて待つことにしたが――その日、返事をもらうことはなかった。
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