――運命の女神と妖精の姫――

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 七年前の春、ティアレンヌは夢で、とある魔女と再会し、ある予言を聞かされた。その魔女は、五千年前、のちにリアトス王となるイオルとともに、アウンダールを旅したときの仲間の一人だった。  ティアレンヌは、旧知の神族であるレアルタに夢と魔女から与えられた予言のことを相談した。運命神であるレアルタの権能には、未来を見通す力がある。その力を使って予言の真偽をたしかめ、その年の秋、ティアレンヌとレアルタはこの森を発見し、そして目の前の大樹の根もとでロイツを見つけた。――魔女の予言の通りに……。  ティアレンヌとレアルタは、赤ん坊だったロイツが横たわっていた大樹の根もとに視線を落とした。しばらくして、レアルタは深く息をついて、ティアレンヌを振り返った。 「ハウランディルから聞いたよ。ずいぶん面白いことが起きたんだって?」  ティアレンヌは軽く首をかしげた。レアルタは含みのある笑みを浮かべる。 「ロイツのことだよ。風霊の樹海で、やんちゃしたんだって?」  ああ、とティアレンヌは苦笑を浮かべた。 「あなたが予言した通りです。警戒はしていたのですが、止められませんでした」  ロイツを発見してすぐ、レアルタは、魂着の儀を経たロイツに転機が訪れることを予言していた。しかし、その詳細は、まるで靄がかかったように見ることができなかったという。 「仕方ないさ。あの子には『彼女』と同じ運気がある。きみや私ではどうすることもできない強い縁だ」 「ただ、その縁に巻き込まれた子がいます」  レアルタは眉を開いた。 「ファルロウ王家の姫だね。これも面白い巡り合わせだ。かの血筋の者が、あの子とともに危地へおもむく。今後、どうなっていくか、予想できないね」 「なんだかうれしそうですね」 「もちろんさ。私の権能では見ることのできないことが起こるのは楽しい。もちろん、よいことに限るけどね」  と言って、レアルタは笑みをおさめた。 「今回、ここには警告に来たんだ」 「警告?」 「うん。樹州の氣の乱れについてだ。ハウランディルが災異の予兆を発見した、というのは聞いたかい?」 「はい。お父さまとアルミスから。ディナリフの森ですね?」 「私もシオルドから聞いてディナリフの森を調査してみた。相変わらず変な森だね、あそこは。奥に進もうとすると、いつの間にか出口に戻されている。権能を使ってみたが、まったく受けつけなかった」 「まったく、ですか?」 「まったくだ。一切、未来を見通すことができなかった。だから、今後なにが起こるか見当がつかない」  レアルタは深くため息をついた。 「ただ、ものすごい氣の乱れを感じた。あのハウランディルがシオルドに助言を求めた理由がわかったよ。たしかに異常だ」 「なにか、できることはありませんか?」 「いまは特にない。強いて言うなら、大気の氣の流れに注意してほしい。なにか災異が起これば、氣脈に大きな乱れが生じるはずだから。――その前に、災異の詳細がつかめればいいんだけどね……」  静かに頷いて、ティアレンヌはわずかにうつむいた。 「無理は、なさらないでくださいね。あなた方神族は、かつてほどの力がないのですから」 「自重はするさ。ただ、ことがアウンダールの危機に関するものだからね。私たちが動くしかない」  そう言って、レアルタはマントのフードをかぶった。 「なにかあれば、遠慮なく頼ってください」 「うん。ありがとう、ティア」  レアルタはティアレンヌに近づき、そっと彼女の頬に触れた。ティアレンヌはその手に自分の手を重ね、目を伏せて頬ずりする。 「ご無事で……」  吐息をするように囁くと、レアルタは静かに頷き、ティアレンヌの脇を通り過ぎた。振り返ると、レアルタの姿はどこにもなかった。  精霊結晶の光がぼんやりと照らす森の中、ティアレンヌはヴェルタの大樹を振り返った。不安げな表情で大樹を見あげ、しばらくして踵を返して館に戻っていった。  ―― 2〈ヴェルタ〉へ続く。
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