15人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、4日に帰ってくるから。」
「うん、じゃあ、気を付けて、いってらっしゃい。よいお年を~」
「いってきます。」
大晦日の午後、奈那は電車の中からホームにいる克之にむかって手を振った。
2つ年上の克之とは、友人のつながりで出会い、付き合ってそろそろ2年になる。奈那は26歳。そろそろ結婚したいな、と結婚情報誌を眺めたりすることもある。
実家まで、特急で1時間半。季節に一度くらいは、顔を見せるようにしているが、ゆっくりと帰るのは年末年始くらいだ。
奈那の実家は地元で商売をしていて、5つ年上の兄が跡を継いでいる。兄は、3年前に幼馴染と結婚し、敷地内で同居している。子どもは一人。
元旦は、おせち料理を食べ終えてから、両親と兄家族と一緒に地元の神社へ初詣にいく。地元では、ご利益があると評判の神社で、お参りを終えてからみんなでおみくじを引くのが子どものころからの毎年の習慣だ。
ガラガラと筒を振り、みくじ棒を引き出す。番号を見せて、みくじ箋を受け取る。
「中吉」
うん、悪くない、と思いながら、みんなで見せ合う。
奈那は静かに運勢を見る。
願望:慌てなければ叶う
待人:来たる
縁談:思わず早く調う
これは、慌てなければ、思っているよりも早く結婚できるってこと・・・?
奈那の顔がほころぶ。
「何、いいこと書いてあったの?」
兄嫁に目ざとく指摘され、奈那は我に返る。
「うん、まあまあ・・・」
「どれどれ・・・。何、彼氏にプロポーズでもされたの?」
兄嫁が、奈那のみくじ箋を覗き込んで尋ねる。
「それは、まだなんだけど・・・してくれないかなあ、って思ってる。」
2日は家でだらだらと過ごし、翌3日、友人二人とランチの約束をしていた奈那は、兄嫁が勧めてくれたレストランに入る。勧めてくれた・・・というよりは、兄嫁の知り合いが経営しているから、一度行ってあげてほしい、と前から頼まれており、予約を入れておいたのだ。
半個室の席に案内され、ランチコースを注文した。友人二人は中学の同級生で、今でも頻繁に連絡を取り合っている。二人とも、地元の企業に就職し、うち一人は9月に式を挙げた新婚さんだ。友人の結婚式に出席してから、奈那の結婚したい熱は更に上がっている。
「どう?新婚生活は・・・」
「うん、仲良くしてるよ。家事も分担して早く終わらせて、二人でゆっくりできる時間を作るようにしてる。」
独身の二人は天を仰ぐ。
「いいなあ~、私も結婚したい。」
「奈那はいいじゃん、相手がいるんだから。」
近況報告をしながら食事を終え、デザートと一緒に、フルーツの盛り合わせが運ばれてくる。
「ランチコースに、フルーツの盛り合わせって、あったっけ?」
奈那がメニューを確認しようとすると、
「これは、俺から。」
と脇から声がした。視線を上げて、じっと顔を見る。
「・・・久しぶり。奈那」
「・・・!!・・・相馬・・・?」
動揺した奈那は思わず声が大きくなる。
「何してんの、こんなとこで・・・」
「こんなとこって、俺の店だぞ。仕事してるに決まってるだろ・・・。」
「お義姉さんの知り合いって、相馬だったの・・・」
「何、悪い。」
「そういうことじゃ・・・。え、このお店、相馬のお店?」
「うん。親と一緒にやってるうちの一つ。」
そういえば、相馬の親も飲食店を経営していたっけか・・・と思いだす。
「え、相馬くん・・・?」
他の二人も、じっと相馬のことを見る。
相馬は、中学のときの同級生で、実は奈那の初めての相手だが、友人の二人はその関係は知らない。
「久しぶり。これ、俺からのサービスだから。ゆっくりしてって。」
「ありがとう」
「そして、また来てくれると嬉しいな。」
さらりと営業スマイルと名刺を出す。名刺の裏には、いくつかお店の名前が印刷されている。
後から聞いたことだが、相馬は兄嫁の高校の後輩だったらしい。部活の同窓会で再会し、兄嫁の結婚で変わった苗字を聞いて、もしかして・・・と確認したところから、繋がっていたようだ。
最初のコメントを投稿しよう!