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40分ほど経っただろうか。奈那のスマホに、相馬から再び着信が入った。
「着いた。」
近くのコンビニの駐車場に向かうと、相馬が車の中から出てきた。助手席のドアを開け、奈那が席に座ると扉を閉めてくれた。
「どうしたの。」
「昨日、連絡できなかったから。今日こそはと思ってさ。」
話始めたところで、奈那のスマホが鳴る。克之だった。
「ちょっとだけ・・・ゴメンね。」
奈那は、大きく息を吐いて、電話に出る。
「奈那・・・」
克之の声が聞こえた。
「あのね。・・・何言われても、無理だから。もう、かけてこないで。」
そう一言いって、電話を切って、電源もOFFにした。
「・・・しつこく言い寄られてる?」
相馬が苦笑いをしながら奈那の顔を覗き込む。
「今日、彼氏の家にいく約束してて、ちょっと予定より早めについたら、プロの人が来てるところに遭遇しちゃったの!で、もう無理です、って話。」
一気にカミングアウトする奈那を、相馬は驚きの表情を浮かべて見ている。
「それは・・・また。よりによって、今日・・・。」
「そう!そういうデリカシーがないところが無理って思って。」
「・・・残念な人だったね。」
「ほんと・・・。今年のおみくじだと、このまま結婚する予定だったのに。」
「ああ、あそこの神社の・・・?」
「そう。」
「・・・結婚する前にわかって、よかったんじゃない?」
微笑みながら言われて、奈那はたしかに、と納得した。
「俺のおすすめの店でいいかな」
相馬は、助手席に奈那を乗せて車を走らせる。奈那は頷く。悪いけれど、今日は、何を食べてもおいしいと感じる自信がない。20分ほど車を走らせて、白とブルーの外壁のリゾート風の建物のある駐車場に車を停めた。
「さて。食事の前に、ちょっとだけ、ここで話してもいい?」
相馬は、ハンドルに腕をもたれかけて奈那のほうを見る。奈那は頷く。
「ちょっと、タイミング的に、いいのか悪いのかってとこなんだけど・・・まあ、いいか。」
相馬は一人で納得して、話し始める。
「奈那は・・・怒ってない?俺のこと。」
何を・・・と言いかけて、次の瞬間、あの初めての経験のことを差しているのだと察して頬が熱くなる。相馬の表情が、なんだか艶っぽく見える。
「あー・・・。うん。怒ってはない。」
「怒ってはない。本当?」
「うん。大丈夫。・・・当時は、私も、ストーカーまがいなことしてたし。」
「ストーカー・・・?」
相馬は首をかしげる。
「相馬の追っかけみたいなことして、こっそり試合とか、練習、見に行ったりしてたの。・・・何回も。」
奈那は恥ずかしさで顔を覆う。チラリと目を開けると、奈那の方を恥ずかしそうに見る相馬の顔が、ガラスに映っている。
「あのとき・・・、あの帰り道で、奈那は、俺のこと好きなのかと思ったんだけど・・・違う?」
「・・・違わないです。はい、好きでした。」
奈那は正直に白状する。
「でも、あの後連絡くれなかった。」
「それは・・・相馬だってくれなかったじゃん。」
「あれから試合があるときは奈那の姿を探してた。けど、見に来てくれてなかったみたいだから・・・、嫌われたのかと思ったんだよ。なんか、俺が、無理やりしちゃったみたいなことになってたら・・・って。フラれたって話したから、慰めようとしてくれてたのかなとか。」
奈那は顔を上げて相馬の方を見る。
「ずっと、謝りたくて。もし、無理じいしてたなら土下座しないとなって。でも、もし、俺のことが好きだと思ってくれてて、ああなったんだったら・・・」
相馬が奈那の手を取る。
「最初から、やり直したいなって。」
相馬の唇が、奈那の手に触れる。
「俺と、付き合って。」
キラキラしていた当時の感情がせりあがってくる。胸がドキドキする。奈那は、相馬の目を見て、頷いた。相馬が笑顔になる。
「じゃあ、ごはん食べよう。お腹すいた?・・・ここ、最近系列店にしたハワイアンカフェで・・・なかなか美味しいよ。」
彼と別れた直後に、こんな風になるなんて。夢じゃないだろうか。これが初夢だったら、叶ってほしい。元旦に引いたおみくじを思い出す。
私の待ち人は、相馬だったんだろうか。
「そうだ・・・」
奈那をエスコートしながら、相馬が言う。
「俺もあの神社のおみくじ、引いたよ。中吉で・・・」
奈那は、続く言葉を聞いて、胸を高鳴らせた。
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