俺と彼女の分岐点

7/7
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「二人を見てたら、お父さんが結婚のお願いに来た時のことを思い出しちゃった」  母さんが遠い目をする。 「すごく緊張してたのよね」 「母さん、余計なことを言わなくていい」  バツが悪そうに苦笑いを見せる父さん。  そうだ。あの後、父さんはどんな言葉を口にしたんだろう。 「そうそう。庭に入ってきた男の人がいたわね。お父さんを必死にかばって。でもあの人、誰だったのかしら。お父さんの知り合い?」 「いや。母さんの知り合いじゃないのか」 「違うわよ。不思議ねぇ。でもあの人のおかげで、お父さんがしっかりと思いを伝えられて結婚が決まったんだもの。あの人に感謝しなきゃ」  二人は顔を見合わせて楽しそうに話す。  あぁ。こんな夫婦に、俺はなりたい。  こんな近くにお手本があったんだ。  あの夢は現実だった。  信じられないことだが、信じられる。  結婚報告の前夜に起きた不思議な奇跡。 「その人、案外近くにいるかもよ。あっ、そうだ。父さん、久々にキャッチボールしようよ。俺がやりたいんだ」 ――ひょんなことから、人生の分岐点は始まるのかもしれない。自分が正しいと思った道を、これからも俺たちは探し続ける。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!