大切な話

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大切な話

「――ってことで、日曜の午後、優香(ゆうか)とそっちに顔出すから」 「(しゅん)。ようやくね。⋯⋯おめでとう」 「ありがとう。父さんには⋯⋯母さんから伝えておいてもらえるかな」  スマホ越しに聴こえる母さんの声は、心なしか湿度を含んでいる。一筋縄ではいかない俺たちの行く末を、ずっと案じてくれていた。  いい歳して親に心配をかけているなんて、心苦しいし、不甲斐(ふがい)ない。 「せっかくだから、うちでお昼食べればいいじゃない」 「そう?」 「私はその方が嬉しいわよ。そうしなさいよ。優香さん何が好きかしら」  付き合って6年目の優香を実家へ連れていくのは、これが初めて。  神奈川の山の方にある実家は今住んでいる場所からも遠くはないし、どちらかが結婚に否定的なわけでもない。初めに「結婚を前提に付き合ってください」と、告白したくらいだ。 ――これには複雑な事情がある。  取引先の担当者だった優香と、最低でも週に一度は顔を合わせて一緒に仕事をするうちに、彼女の仕事に対するひたむきさや、人に向ける真摯(しんし)な姿勢に興味を持ち、漠然と憧れのようなものを感じ始めていた。だからその好感が、恋慕(れんぼ)の情へと変化していくのはごく自然な事だった。  しかし優香は取引先の新入社員。  俺は会社で中堅的なポジション。  歳はひと回りも違った。  極めつけに――彼女は、結婚していた。
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