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気が付けば勝手に体が動いていた。
垣根の間を通り抜け、庭から縁側の前へ駆け寄る。
「失礼します! 一言よろしいでしょうか! 山崎さん⋯⋯は、人の何倍も努力して、一生懸命に家族を守る人間です! だから必ず娘さんのことも守りきりますから!」
父さんの弁護をしたいのか、俺の意志を伝えたいのかは分からなかった。口から勝手に言葉が溢れた。
だが突然乱入してきた見知らぬ男に向けた視線はみな同じものだった。誰もが口を半開きにして目を見開いている。
冷静に考えたら、そりゃそうだ。
ただの不審者。
そしてじいちゃんが「君は誰だね!」と、怒鳴り声をあげる。
「いや、通りすがりの者でして⋯⋯」
ジリジリと庭の砂利石を踏み鳴らして後ずさりをしながら父さんに目をやると、今まで見たことがないような穏やかな顔がそこにあった。俺が誰だか知るはずもないのに。
踵を返そうとすると、母さんが「待って!」と手を伸ばす。
そして、その手がぐわんと歪んだ――。
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