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「父さん、平気そう?」
「どうかなぁ。日曜は工場には行かないけど、ほら、お父さん、気まぐれだから」
母さんは「まったくよね」と、笑った。
実家は硬式野球ボールの製造業をしている。
その大半が手作業だから、中国などの海外の工場に委託をして作っている会社も多い中、父さんの会社は国内でも数少ない生産工場を所有していて、国産のボールにこだわっていた。
5年前に父さんは会長職につき、兄さんたちが跡を継いだ。だが母さんの話によると、まだ隠居はせず、会社や工場に毎日顔を出しているらしい。まぁ、仕事命だった父さんが、じっとしているとも思えないが。
「父さんのことだからさ⋯⋯」
「大丈夫よ。お母さんがなんとか引き留めておくから」
「悪いけど、お願い」
多少の不安を残したまま、母さんとの電話を切って、小さなため息をつく。
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