大切な話

3/6
前へ
/20ページ
次へ
――父さんには前例がある。  二人の兄さんたちの時も、「俺はいいよ」なんて言って逃げたらしい。  その一番上の兄さんが会社を経営している。  二番目の兄さんが営業部長。  三男である俺は――製造業とは畑違いのエンジニア職に就いている。  今となってはこれで良かったと思っているけど、当時は意地もあった。  幼少の頃から兄さんたちと同じチームで野球をしていたのに、俺だけサッカーに転向した理由と同じ。  様々な理由があったけど、その最たるものは兄さんたちと比べられることが嫌だったから。野球だって自分でやりたくて始めたんじゃない。物心ついた頃から兄さんたちに付き添って行っていた。ただそれだけだった。  もっと自分らしいことがしたかった。  俺は――「兄さんたちの弟」としての俺じゃなく、「瞬」としての俺を見つけたかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加