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父さんは仕事人間で、超がつくほど生真面目。だからか俺たち兄弟に対しても厳しい態度で接した。特に一度始めたことを真剣に取り組まなかったり、すぐやめてしまうことが父の怒りを買うことも分かっている。
だから小4の時に意を決して「野球をやめてサッカーをやらせてください」と、父さんに伝えた時のことを、今でも時々思い出す。
大きく広げた新聞で表情が見えない。
永遠に続くように流れる沈黙。
父さんは新聞を丁寧に折り畳み傍に置くと、口を閉じたまま鋭い目つきでじっと俺の顔を見つめた。俺の言葉が信用できるのかを値踏みをするような眼差しだった。
――本当にやる気があるのか? 中途半端な考えで物事と向き合うもんじゃない。お前にはその覚悟があるのか?
周囲の空気を震わすような低い声。
冷や汗が背中の中心をじわりと滴っていく。
すぐ近くにいるのか、うんざりするほどに蝉の声が耳に響く。
怒鳴られるよりも何倍も恐ろしい緊張感に体はすくみ上がって硬直していた。
――はい。覚悟はあります。
しっかりと父さんの目を見据えて、俺はそう答えた。
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