大切な話

5/6
前へ
/20ページ
次へ
 だけど正直、そこまでサッカーがやりたかったわけじゃない。野球じゃなければ何でも良かったんだ。同じクラスのショウタにちょうどサッカーに誘われたってだけで。  でも自分らしさを探したいという強い気持ちが伝わったのだろう。父さんは「そうか」と言っただけで、また新聞を広げた。  始めた理由はアレだが、「やると決めたらやってやる!」と、心に火がついた。  それからサッカー中心の生活を送ったし、強豪高校に推薦で行った。  しかし上手いやつはいくらでもいる。  部員の多いサッカー部でレギュラーにすらなれないやつがプロを目指せるほど、世の中は甘くできていない。  それでも父さんと交した約束がいつも心のどこかにあって、俺を振るい立ててくれていた。 「自分に負けたくない」と。 ――だが一つだけ、心に引っかかっている。  サッカーの許しを得た日から、父さんとキャッチボールをしなくなったことだ。  それまでは父さんの方から「やるか!」と、声を掛けてくれていたのに。父さんが兄さんたちとキャッチボールをしているのを横目に、俺はサッカーの練習へ行っていた。  父さんに見放されたんだと思った。  きっかけを作ったのは俺だけど。  それが父さんの会社に入らないと決めた理由の一つでもあった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加