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「ねぇ、瞬。何て言ってた、お母さん」
電話を傍で聴いていた優香が、眉間に皺を寄せて俺の顔を覗き込む。
「大丈夫。楽しみにしてるって」
心を覆う薄い心配を隠すようにしながら、優香に笑顔を見せた。
取引先の担当者は、優香の他にも若い女性が多くいた。社内でも高嶺の花と言われている美人の子や、ノリの良い明るい子も。
――その中に優香はいた。
決して目立つタイプではなく、仕事ぶりも誰かのサポートをするような立ち位置で、いつも端の方にいるような子だった。
いつものように会議が終わって、そそくさと部屋を出ていく人たちの波に乗ろうとすると、優香が目に入った。一人で会議室の片付けをしている。思い起こせば、毎回そうだったんだ。
――山田さん。僕、こっち持ちます。
声を掛けた俺を見て優香は酷く驚くと、「山崎さん、ありがとうございます⋯⋯」と、申し訳なさそうに目を逸らす。
その時は、会議用のテーブルを持つ彼女の左手に光る銀色の指輪の印象と、ずいぶん控え目な子だな、と思う程度だった。
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