夢として見せたもの

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***  再び意識が戻って、目に景色が映る。  どれぐらい時間が過ぎたのだろう。  やはり寝付けなかったのか。 ――いや⋯⋯寝室じゃない。  慌てて周囲を見回すと、なぜか夕暮れ時の田舎道にポツンと立っている。  青々とした稲穂が揺れる田んぼと赤く染まり始めた空。人の気配はない。  だがこの景色には見覚えがある。  母方の祖父母の家の前だった。  なぜ、俺はここにいるのだろう。  誰かに連れてこられたのだろうか――。 「あの、すみません。ちょっといいですか?」  肩を叩かれ、低い声がする。  振り向くと長身の男性が立っていた。  見覚えのある顔だった。  いや、まさか――。  知っているなんてレベルじゃない。  そうだ。古いアルバム、そのままの顔。  反射的に体を少し引くと、その男性は横を通り過ぎて門に向き合う。  それから肩を上げるくらい大袈裟(おおげさ)に深呼吸すると、目の前のインターフォンを押した。 「こんにちは。山崎です」と、滑舌のいい声が田園風景に響く。  その男性は――父さんだった。
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