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離婚前夜
「あなた」と言いかけて、私の口は躊躇した。
今はもう、私の夫ではないのだ。
いいえ、正確には明日。私たちはきっと夫婦でなくなる。圭介は、すぐ目の前にいるというのに。
私は今まで、何度、あなたの名前を呼んだだろう。もう、「あなた」とも「圭介」とも呼べないなんて。
あなたの心の中には、私の存在なんて一ミリも入り込む余地はなくなってしまったのね。
だって――
彼の隣に肩を寄せている女性が、今の妻なのだから。
離婚前夜に訪れた、私の最低最悪な夜がこれから始まろうとしていた。
私と圭介は、夫婦仲が決して悪い訳ではなかった。ただ、お互いに仕事をしており、会話をする時間もなく、すれ違いも多かった。休みも別々なため、食事すら一緒にとることもなくなった。
離婚届の書類を前に、圭介が私に交わした最後の言葉は「お弁当はもういいから」だった。
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