コーヒーゼリーの誘惑

1/2
前へ
/12ページ
次へ

コーヒーゼリーの誘惑

「圭介、奥の部屋に小さな金庫があるんだけど、取ってきてくれる?」 圭介に(けが)れた心を見せたくなくて、わざと用事を頼み、二人きりにした私は朋恵の様子を(うかが)うことにした。 テーブルの上にはお茶とコーヒーゼリーを用意しておいた。コーヒーゼリーは、以前私が手作りして、圭介が美味しいと言ってくれたものだった。 「私たちって、コーヒーゼリーみたいよね。私と圭介は黒いゼリーで、きっと朋恵さんは白いミルクね」 朋恵の動揺した姿を見たくて、私はゼリーの中へスプーンを突き刺し、粗雑に言葉をけしかけた。 「ほら、小さな隙間を見つけて、その隙間(ひび)が入ったところから、真っ白なミルクが躊躇(ためら)うことなくじわじわと潜り込んで、より深く、より奥へと侵入していくわ」 ピクリと朋恵の眉が動く。視線は私の手に持つコーヒーゼリーに注がれている。その行方を気にするように、小さく眉を片方だけ上げた。 「私、甘いものは苦手なのよ。だからね、シロップの入った甘いミルクは、大嫌いなの」 顔色ひとつ変えず、朋恵は無表情のまま私の方へと向きを直した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加