コーヒーゼリーの誘惑

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朋恵はお腹をそっとひと撫ですると、自分の所へ置かれてあるコーヒーゼリーを手にし、ゆっくりと口にする。 「このコーヒーゼリー、とてもおいしいですね」 スプーンを口の脇に挟んだまま、ほんのりと笑ったように見えた。 「私は好きです、甘いミルク。苦味をまろやかにしてくれたり香りを引き立てたりして」 テーブルに戻されたゼリーはまだ余っていたが、それはミルクの触れていない部分だけが忘れられたように、あえて取り残されていた。 「今コーヒーゼリーを口にしたように、私はその中に導かれたに過ぎません。ゼリーとミルク、一つになって初めてコーヒーゼリーなのではないでしょうか。どちらかが欠けてもダメ。ミルクが入って苦味を緩和して調和するように、圭介さんと私はそのゼリーとミルクの相性のバランスがうまく()まった。ただ、それだけのことです」 口元に残ったミルクを舌舐(したなめず)りして、今度は鋭い視線の刃をこちらに向けた。 「でも、その隙間を作ったのは私ではありません。ゼリーの中へミルクを招き入れたのは圭介さんの方です。そして、こんな風に新しい味ができていく」 お腹に手を当て、目を細めながらゆっくりと(まばた)きをして私を睨みつける。 「ゼリーの中にスプーンを入れて、その隙間を作る原因を作ったのは、見て見ぬふりをした依子(よりこ)さん、むしろあなたの方なのでは?」 朋恵は、私の驕慢(きょうまん)な心を容易(たやす)く見透かし、スーッと息を吐いて再びお腹を撫で始めた。 「ごちそうさまでした」 お茶を全て飲み干すと、朋恵は満足そうに薄笑いを浮かべていた。
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