慈恩の艶めく本能

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その時、俺の中に唱馬の顔が浮かんだ。 愛しい人を失うという事は、きっと、こういう事だ。 寂しくてたまらない。 魂を半分もぎ取られたような痛みと苦しみが襲ってくる。 その人の温もりを忘れるために自分を騙して生き続ける。 そう考えたら、唱馬が気の毒になった。 というか、何でよりにもよって同じ人に惚れてしまったのか… 悪いけど、唱馬にはこの地獄のような苦しみを乗り切ってもらわないと。 「専務、これをどうぞ。 専務の冷蔵庫を見て、勝手に作っちゃいました」 テーブルの上にラップで包んだサンドウィッチが置いてある。 冷蔵庫の中に何が入っていたかも思い出せない俺は、その出来栄えに感動すら覚えた。 「食パンが冷凍庫に入っていたのと、卵とハムがあったのでちゃちゃっと作っちゃいました。 味は保障できませんが、お腹は満たされると思うので」
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