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「あ~、環奈ちゃん、何も聞かないで~
今すぐ向かいますって、二宮さんに伝えてて~」
環奈ちゃんと私は同じ年で同期入社。
出入りの激しいこの職場で、お互い何とかここまで続いている。
私は身支度を猛スピードで終えると、全身を鏡でチェックした。老舗の高級旅館はスタッフの身だしなみを何よりも優先的に重要視する。
私は肩までの髪を引っ張りながら後ろで結んだ。
寝ぐせを直している暇なんてない。
固めるジェルでおくれ毛を押さえつける。
清潔感を優先すれば、現時点ではこの髪型しかなかった。
私はスマホでシフト表を確認しながら、洋館の三号棟へ急いだ。
洋館の三号棟は別名フリージアと呼ばれている。
「高梨さん、急いで!」
従業員入り口からメインのエントランスに向かう途中、フリージアの担当マネージャーをしている鰺坂さんとバッタリ会った。
鰺坂さんは三十代後半のスレンダー美人。見た目も美しく、そして仕事もできる。内外問わず皆の憧れの的だ。
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